Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
7,3年の王子先輩
「てかさ、あのセンコーまじうざくね? うちらに口出しすぎだって」
「そんなに言うならおまえが文化祭準備やれってのー、って言いたいよね~」
ざわざわとした話し声が右から左に通り抜けていく。
授業にも集中できないまま休み時間が来て、私はつくえに両ひじをつきながら両手で顔をはさみ、もんもんと考えこんでいた。
「動画も見ないで ぼーっとしてるなんてめずらしいじゃん。今日はどうしたの、
「わっ」
ぽん、と肩をたたかれて、おどろきの声がもれる。
今回はとなりの席を
家のなかのことは、たとえ友だち相手でも言っちゃいけない決まり。
だから、今日から
「うぅ~……くわしくは言えないんだけど、今日からどうしようって思って」
「ふーん。大変そうだな~」
「そうなんだよ~……!」
私、これから帝さんのとなりの部屋でどうやって すごせばいいの……!?
ドロップハートのためには、そりゃあ物理的に近い距離にいたほうが、なにかとチャンスがあるんだろうけど~……!
「うぅー」とうなりながら目をつぶっていたら、なんだか
「きゃー! うちの階に王子先輩がいる!」
「先輩っ、どうしたんですかぁ? 用事があるならお手伝いしますよっ」
「私も、私も! なんでも言ってくださいっ」
おもに色めき立ってるのは女子みたい。
イケメンの3年生でも現れたのかなぁ、なんて考えていたら、茜も「うるさ、なんなの?」と
「ありがとう、ちょっと3組の子に用があって。通してくれるかな?」
「「はぁーいっ」」
「んん……?」
やさしげなひびきを持ったやわらかいその声に聞き覚えがあって、ぱっちりと開いた目を教室の外に向けると、廊下から金髪のイケメンが顔をのぞかせた。
ばちっと視線が
「結花さん、おはよう」
「は、
びっくりして思わず席を立った私に、教室内外から視線が集まった。
「また
「ほら、
「ずる……」
ひそひそと女子が話す声が聞こえてきて、さすが晴琉くん、と目をそらす。
学校中の女子のハートをがっちり つかんでるんじゃないかなぁ。
「業務連絡なんだけど、結花さんに伝言を頼まれてて。ちょっと来てもらえるかな?」
「んぇ、わ、わかりました」
仕事のことで、私に伝言?
首をかしげながらも、茜に「ちょっと行ってくるね」とあいさつして、私は晴琉くんと一緒に廊下を歩いた。
どこを移動しても注目を浴びる晴琉くんがとうとう人目を振り切ったのは、学校の屋上。
トゲのある視線の集中
「結花さんには支配人がいるから、ってあとでみんなに言っておくよ」
「え。い、いえ……っ、晴琉くんがモテモテなのは わかってましたから」
そういう言い方をされると、私と帝さんが特別な関係みたいで、ちょっと……っ。
かぁっとほおが熱を持つのを感じながら目をそらすと、晴琉くんが「あはは」と笑う。
「業務連絡っていうのはうそで、ただドロップハートの件が気になっただけなんだけど。そのようすだと、支配人となにかあったの?」
「うそ……? あ、そ、そうなんです! 友だちのアドバイスを聞いて、その、恋愛対象として見てもらえるようなアプローチをしてみたんですけどっ」
「それからというもの、私のほうがどきどきしてしまって、チェッカーが反応しないように帝さんから距離をとるしかなくて!」
「そっか。それは大変だったね」
「そうなんです~っ、帝さんの新しい表情は見れたけど、あれからまた無表情にもどってるし、帝さんに意識してもらうなんてことできるんでしょうか!?」
「ん……? 支配人の表情が変わったの?」
ぱちりとまばたきして、首をかしげる晴琉くんに、私はこくこくと うなずいてみせる。
「そうなんですよ、帝さん、ほほえんでたんです! ちょっとでしたけど! 帝さんとキスして、あんな顔まで見たら、どきどきしないほうがむりで~っ」
わーっと頭を抱えてから、口をすべらせてしまったことに気づいて、はっと顔を上げた。
晴琉くんはおどろいた顔をして、ばっちり私を見ている。
みるみるうちに首から熱がせり上がってくるのを感じた。
「い、い、い、今のは聞かなかったことにしてください!!」
「あはは、うん、なにも聞いてないよ。でも、支配人が笑ったなんてすごいね。結花さんも まちがいなく意識されてるはずだよ?」
「そ、そうですかね……?」
「あの支配人を笑わせたんだから、自信を持って。その調子でいけば、支配人に勝つことだって夢じゃないよ」
晴琉くんに はげまされて、
たしかに、あの帝さんがほほえんだ顔を見せてくれたんだから、ちょっとは進展してるって思っていいのかな?
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