Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
6,進む関係
Side:
「あ、あ……」
これ以上はないだろう、というほど顔を赤くして、おそれもなにもない
後頭部をつかまえたまま、気安く俺に向けられることがないその
「~~っ、し、失礼しますっ!」
裏返った声でそう言って、一歩あとずさった結花をそのまま逃がせば、
「……」
子どもだましの手品に始まり、自分でえらんだという花束を渡してきたり、帰りの車で助手席に隠れておどろかせようとしてきたり。
ドロップハートの攻略として、外したことばかりしてくる結花が、ようやくストレートな行動に出たかと思えば、自分の失敗に気づかず。
「
扉をノックした
イスに腰かけて、中断した書類の確認を再開する。
「ゆいちゃん、俺の顔も見ずに走っていきましたけど。今日は なにをしてくれたんです?」
「……キスをさせろと」
「……へぇ」
廉の声がにやついたものに変わった。
「ゆいちゃんはおもしろい子ですよねぇ。多少は退屈しのぎになるんじゃないですか?」
「……」
たしかに、あの
「その顔は多少ならって感じですね。帝サマ、ゆいちゃんともっと近くで生活してみてはいかがです?」
「……家に住ませてるだろう」
「あんなすみの部屋じゃなく。ほら、帝サマのとなりの部屋とか、空いてるじゃないですか」
家の人間が勝手に用意した、“女”用の部屋か。
あれを使う気はないが……。
「ゆいちゃんにもその意識が生まれて、予言が動き出した。できることは ぜんぶやりましょうよ。帝サマに死なれちゃあこまるんですから」
「……」
予言、か。
結花が予言のとおりの存在だとは思えないが……勝負に負けてここに残ることになった以上、その日までようすを見ておくのもわるくはない。
「そうそう、
「……そうか」
「“片付けて”おきますか?」
「どうでもいい」
「わかりました、では放っておきます。俺が
へらりとした
必要なものにサインをするため、デスクの上の
……もっと近くに来ることを許したら、結花はどんな顔を見せるようになるのか。
そのことに、すこしだけ興味が湧いた。
****
Side:
今日も25時まで仕事をして、帝さんと家に帰ってきたあと。
大浴場にゆっくりと
本当なら、毎日せっきょく的にアプローチするくらいじゃないと、私が帝さんを落とすなんて むりなんだろうけど……。
「結花」
「ひゃいっ!?」
聞こえるはずがない帝さんの声がして、びくっと はねながら顔を上げると、
あわてて目視で距離を
それから、おそるおそる帝さんの顔を見て、目を合わせた。
帝さんとキスをして、初めて帝さんがほほえむ顔を見た
チェッカーに感知されないように、ここ数日、帝さんとは半径1.5m以上の距離を
「ついてこい」
「え……?」
一言口にして、階段を上がっていく帝さんをぼーっと見つめると、階段の上から振り返って見下ろされ、はっと我に返った。
「は、はい!」
こんな時間に、なんの用だろう……?
そう思いながらも階段を登ってあとを追うと、帝さんはちらりと私の姿を確認して、1人で
しばらく帝さんの背中を離れたところから追いかけていれば、私が立ち入りを禁止されているエリアを進んでいくのが見えて、「み、帝さん」と声をかけた。
「私もそっちに行っていいんですか……?」
「あぁ」
振り向いた帝さんは短く
4年間住んでて初めて立ち入る場所に、おそるおそる足を踏み入れてあとを追うと、帝さんが2つならんだ扉の前で足を止めた。
そのまま、帝さんは向かって左側の扉を開けて、ぱち、と真っ暗だった部屋の電気をつける。
「わぁ……」
帝さんが部屋のなかに入ったのを見て、廊下から部屋のなかをのぞくと、お姫さまが住んでいそうな、上品でかわいらしい内装が見えた。
特に、ベッドは
寝てみたら、くもみたいにふかふかしてるんだろうなぁ……。
「明日からここが結花の部屋になる」
「……んぇっ!? こ、ここが私の部屋、ですか!?」
なんでこんな高級そうな部屋に!? 私、今の部屋でも充分広くて、日々ありがたみを感じてるんだけど!?
ぱかっと口を開けて帝さんを見ると、あの日のほほえみがうそのような無表情をした帝さんは、ベッドの向かいの壁にある扉を開けた。
「この先は俺の部屋だ。カギをかけられるのは俺の部屋からだけだが、基本は開けておく。そのあいだは俺の部屋に入ってきてもいい」
「えぇ!?」
み、帝さんの部屋がおとなり!? しかも扉1枚でつながってるの!? その上立ち入り自由!? なんで!?
「荷物の移動は明日の日中に使用人がやる。仕事が終わったらここに帰ってくるだけでいい」
「は、はい……」
思わず返事をしてしまってから、いや、“はい”じゃないよ?と自分にツッコむ。
な、なんで急に部屋移動なんて……しかも、帝さんのとなりの部屋に……。
「……今日からここで寝るか?」
帝さんはとなりの部屋に続く扉を閉めて、部屋の前から動かない私を見つめ、そんなことを聞いた。
「い、いえっ! 部屋にもどります!!」
「そうか」
「はいっ! お……おやすみなさい!」
私は混乱を抱えたまま頭を下げて、「あぁ」という帝さんの声を背に、来た道をぎこちなくもどった。
あ、明日から……ど、ど、どうしよう!?
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