Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
2,態度を変えた廉
変わったことをして意表をつく……。なるほど。
「って、
思わず考えこんだあとに、目を丸くして廉さんの顔をまじまじと見つめた。
廉さんはゆるく笑って「あぁ」と答える。
「帝サマから聞いたぜ。俺は全面的にゆいちゃんを
「え……私が勝負すること、廉さんはあんまり よく思ってないのかなって思ってたんですけど」
「ま、ふつうのゲームならな。帝サマがドロップハートをやるときが来るなんて、
「はあ……?」
ドロップハートだから、私が勝負してもいいってことなのかな?
それに、私を応援するとまで言ってくれるなんて……。
私が勝ったら、帝さんが私なんかを好きになっちゃった、ってことになるのに、廉さんは私を応援してていいのかな?
首をかしげながら廉さんのふしぎな思考について考えていると、
「晴琉くん……?」
「
「あぁ。今は支配人ルームにいるだろうから、ちょっとあいさつでもしてきな? ゆいちゃん」
「んぇ、私ですか」
「あはは、こまめなあいさつは いい関係を地道にきずくための第一歩だよ」
晴琉くんにもあと押しされて、たしかに、と考える。
「わかりました。それじゃあ、ちょっと帝さんに会いに行ってきます」
「お~」
「行ってらっしゃい、
2人に手を振ってから、私はスタッフルームを出て、めったに行くことがない支配人ルームへと向かった。
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Side:―――
結花の姿が扉の向こうに消えると、周囲から ちらちらとひかえめに向けられる視線を気にするそぶりもなく、廉がロッカーのほうへ足を向ける。
晴琉は口元にかすかな ほほえみを浮かべながら、廉の背中へ小さく声をかけた。
「ところで、冬木さんが結花さんをひいきするのは、予言があるからですか?」
踏み出した足をぴたりと止めて、廉はゆっくり振り向く。
しかし、晴琉へと向けられた視線は、そのゆるやかな動作とは裏腹に、するどいものだった。
「“予言”、か。およそ日常生活で出てくる言葉じゃねぇな~。……おまえ、そんな言葉どこで覚えてきた?」
口元にへらりと笑みを浮かべ、軽い調子でしゃべりながらも、廉の動作ひとつで命をつままれてしまうような、きんちょう感をあたえるひびきが、その声には隠れている。
晴琉はにこ、とほほえんで、雑談に応じるような軽さで答えた。
「仲良しのお姉さんから聞いたんですよ。結花さんが予言を
結花が出て行った扉に視線を向けた晴琉を、廉は表情をそぎ落としたような顔で冷たく見すえていた。
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Side:
目の前にある、高級感がただよう扉をコンコンコン、とノックして、「おつかれさまです、
「入れ」
扉の向こうからくぐもった帝さんの声が返ってくると、私は「失礼します」と扉を開けて、支配人ルームへ入った。
ごてごてと かざりつけていないのに、
「なんの用だ?」
ひさしぶりに見た支配人ルームの内装に
「あ、えぇと、廉さんにちょっとあいさつしてきな、と言われまして……おはようございます。いや、こんばんは……?」
仕事用のあいさつじゃなくて、時間帯に
にこ、と笑いかけると、部屋のなかに ちんもくが落ちる。
……こ、ここからどうしよう。
あいさつしたから帰る? いやいや、支配人ルームまで来ておいて、あいさつひとつしたくらいで帰るなんて……っ!
え、えぇと、変わったこと、変わったこと……。
廉さんのアドバイスを思い出して、部屋のなかに視線を走らせると、正面にあるデスクに
「あ。帝さん、デスクにある万年筆、お借りしてもいいですか?」
「あぁ」
帝さんの許可を取って万年筆を取りに行ったあと、デスクの前で横を向いて帝さんと向かい合う。
そして、思いついたことを元気よく口にした。
「これから、手品をします!」
「……」
「よく見ていてください。かたーい万年筆ですが、こうやって魔法をかけると……」
右手に持った万年筆をおおうように左手をすべらせて、人差し指と親指で万年筆をつまみ、顔の高さまで持ち上げる。
それから、手を上下にすばやく動かして万年筆の先っぽをゆらすと、指でつまんだ場所の横がぐにゃぐにゃと曲がった。
「ごらんのとおり! 万年筆がこんなにやわらかくなりました!」
「……」
「……」
「……」
左手をじゃん、とそえて笑顔で帝さんを見れば、表情が変わる気配のない帝さんに、じぃ、と見つめられて、ちょっとずつ
む、無反応! そうだよね! あの帝さんが手品をひろうしたくらいで私のこと好きになってくれるわけない!
「し……失礼しましたっ!!」
私は耳まで熱くなるのを感じながら、急いで万年筆をデスクの上にもどし、支配人ルームを飛び出した。
いくらなんでも、このやり方は むぼうだった!!
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