Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第1章 黒街 から出るための勝負
12,外に出たい理由
せっかくチケットを買えたのに、手放さなきゃいけないんだ。
そんなことを考えていると、じわじわと視界がゆがんでいって、瞳から
あれ……たしかにショックだけど、そうかんたんに
もしかして久しぶりにお兄ちゃんと話せるかもとか、初めてお父さんと会えるかもとか、ちょっと考えてたせいかな。
仮面の内側に涙がたまっている感触がして、これ以上仮面をぬらさないように、頭からゴムひもを外し、内側をセーラー服のそでで
「ごめんなさい、ちょっとぬれちゃいました……」
「……」
仮面を返すと、
「……4年間大人しくしてたのに、どうして今になって外に出たがる?」
「えぇと……推しの、好きなVライバーのライブを観に行きたくて。だめもとだったんですけど、チケットを買えたから、もっと行きたくなって」
「……」
聞かれたことに答えると、帝さんが無言で私を見つめた。
表情は変わってないけど……も、もしかしてあきれられてる!?
みんなが外に出たがる理由って、家族に会いたいとか、ここの生活にいや
「んやっ、ちょ、ちょっとはお兄ちゃん元気にしてるかなとか、お父さんに会ってみたいなとか思いましたよ!?」
「……」
「でも博ツキくん、あ、
私は推しの魅力をわかってもらうべく、帝さんに詰め寄ってまくしたてるように語る。
「とにかく
「……博戯、ツキ」
帝さんがぼそっと博ツキくんの名前をくり返したのを聞いて、興味を持ってもらえた!?とテンションが上がった。
もし帝さんと博ツキくんの話ができるようになったら、私、うれしすぎて1日中顔がゆるみっぱなしになるかも。
「は、博ツキくんって男性ファンも多いんです! よかったら切り抜き動画見てみますか!? ゲームのなかのカジノで遊んでる動画とかもあるんですよ!」
涙も乾いて、今すぐスマホを取ってこようか、とうずうずしてスタッフルームがあるほうを見る。
帝さんに“スマホを取ってきます”とことわりを入れようとした矢先、帝さんが「見ない」と冷たく答えた。
がんっ、とショックを受けた私を見つめて、帝さんはさらに口を開く。
「そんなに外に出たいなら、もう一度だけチャンスをやる」
「……えっ?」
チャンス? 今、“チャンスをやる”って言った!?
大きく目を開いて帝さんを見つめると、帝さんは「その代わり」と気だるげな声で
「ゲームは“ドロップハート”限定だ」
「ドロップ……ハート?」
ぱちぱちとまばたきをして、どこか聞き覚えのあるそのゲームについて必死に記憶を掘り返す。
たしか……うちのカジノにある
担当場所からなかなか動くことがないからでもあるけど、そんな“特殊”なゲームで遊んでるところなんて、ぜんぜん見かけた覚えがないんだけど……?
「……すみません、帝さん。あの、ドロップハートって、どんなゲームでしたっけ……?」
まったく
カジノにあるゲームの内容を
自責の念にかられて泣きたい気持ちでいると、帝さんが通路の先に体を向けて たんたんと答える。
「女好きだった先代の支配人が作った、対支配人の特殊なゲームだ」
「対、支配人……?」
その言葉を聞いて、たしかに昔、“ドロップハートっていう対支配人の特殊なゲームもある”とだけ説明を受けた記憶がよみがえった。
女好きだった先代の支配人が作った、って……え、どんなゲームなんだろう?
帝さんが
通路の先に向かって歩き出した帝さんについていきながら、私はドロップハート、ドロップハート?と首をかしげる。
どんどん通路の奥へ奥へと進んでいく帝さんが足を止めたのは、ゲームに使う備品の予備なんかが置いてある倉庫の前だった。
「ゲームの目的は、“相手の心を落とす”こと。自分に対して恋愛感情を
「――えっ!?」
倉庫の扉を押し開けながら、帝さんが口にした言葉におどろいて、私は目と口を限界まで開いた。
恋愛感情を抱かせたほうの勝ちって……それ、“心を落とす=相手を
そ……そんなゲームがあっていいの!?
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