男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
9,マリーゴールド騎士団VSスイセン騎士団
私の予想通り、スイセン騎士団との練習試合は、マリーゴールド騎士団が勝つことなく、5試合目まで進んだ。
「また負け、か。ふっ、この悪い流れ、僕が断ち切ってこよう」
「頑張れ、ネイサン!」
目を伏せながら、ネイサンは自信満々な笑みを浮かべて、前に出る。
言動だけ聞くと才能ある新人のように聞こえるけど、訓練の様子を見た感じ、ネイサンも例によって下手な部類だ。
相手も新米の騎士とは言え、素質の差が試合結果に現れている今、ネイサンが勝つことは期待できないだろう。
「始め!」
ネイサンは、開始の合図を聞くなり体をひねって、剣をくるりと回転させたあとに相手へ切りかかった。
無駄すぎる変な動きに相手は面食らっていたものの、ネイサンの剣を弾くようにガードして、逆に攻撃する。
振り下ろされた剣を、ネイサンは上体をそらしながら受け止めて、「くっ」と上に払った。
「やりますね……」
「はぁ……?」
ネイサンは間違いなく変人だ。
自己完結型で他人に絡むタイプではないから、私にとっては無害な存在だけど。
もう見ていられない、とため息をつきながら目をそらすと、ちょうどキース団長が視界に入った。
腕を組んで試合の
まぁ、気持ちは分からなくもないけれど……。
そんなあからさまな顔をしなくても、と思っていると、キース団長の視線は向かいのアリスター団長へと移った。
そして、勝ち誇ったような笑みがその顔ににじみ出る。
「うわ……」
お兄さまをいじめてた人たちと同じ顔してる……。
「勝者、スイセン騎士団!」
「そん、なっ……!」
「くそっ、また負けかよ……!」
隣で悔しがっているトムを見て、熱心だなぁと思う。
中央でひざをついていたネイサンは、立ち上がってとぼとぼとアリスター団長のもとへ戻った。
「よく頑張った、ネイサン。次はどうやったら勝てるか、あとで一緒に考えよう!」
「はい……団長」
アリスター団長は口角を上げて、ネイサンの肩をポンとたたく。
それからこちらを見て「トム! 次はきみだ」と声を張った。
「気負わなくていい。トムにできることを、1つ1つ、ていねいにやるんだ」
「はいっ!」
気合を入れて応えるトムを見て、アリスター団長は、にっこりと笑う。
「頑張れ、トム」
「おう! ありがとな」
私も声かけだけしておくと、トムは笑って剣を取りにいった。
さて、一方のスイセン騎士団は……。
ちらりと目を向けると、キース団長が新人騎士たちに声かけをしているところだった。
「いいぞ。その調子で……」
“マリーゴールド騎士団をたたきのめせ”と告げているのを、私の地獄耳はとらえる。
アリスター団長との対比で、あの人がイヤな人間だというのはよぉく分かった。
キース団長は、アリスター団長ごと、マリーゴールド騎士団を見下している。
うちは落ちこぼれ騎士の集まりなんだから、仕方ないとは思うけど……。
それだけじゃない悪意があることは、あの
気に食わないなぁ……いじめっ子という人種は、何歳になっても。
「両者、構え!」
審判の声を聞いて、トムとスイセン騎士団の新人は剣を構える。
審判が「始め!」とさけぶと、トムと相手は同時に剣を振り下ろした。
ガキィンッ!と
両者共に押し切れないと悟ると離れ、相手は剣を水平に構えて、突きをくり出した。
トムは剣を垂直に構えて、剣の腹で剣先を受け止めると、勢いに押されるようにずりずりと後退する。
「く、ぅ……っ!」
あの防御の仕方は悪手だなぁ……。
突きと比べて力を込めづらいから、すぐに突破されるはず。
私の予想を裏付けるように、トムは押し切られて、相手の追撃を避けるために上体をそらした。
その結果、バランスを崩してしまい、尻もちをつく。
慌てて剣を前に向けても、かんたんに弾かれて、胸に剣先を突きつけられた。
「勝者、スイセン騎士団!」
審判の宣言を聞いて、ひっそりとため息をつく。
マリーゴールド騎士団は、1勝もできないまま終わるかもしれないなぁ……。
「どうした、アリスター“団長”。きみの部下はその程度か?」
トムとスイセン騎士団の新人が待機場所に戻ると、キース団長は、つんとあごを上げて見下すように笑った。
「やはり、“あまりもの”では質が悪いようだな。ふっ、きみが選抜会議の日付を
「えぇ、それは僕の確認不足でした。ですが、キース団長、僕は皆さんから与えられた部下を大事に思っています」
キース団長の言葉をさえぎって、アリスター団長はあごを引きながら笑みを浮かべる。
ぴくりと眉を動かしたキース団長は、笑みを消してこちらに背中を向ける。
アリスター団長は、強い人みたいだ。
私は団長どのを見直しながら、続く試合の様子を見守った。
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