男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

9,マリーゴールド騎士団VSスイセン騎士団

約2,100字(読了まで約6分)


 私の予想通り、スイセン騎士団との練習試合は、マリーゴールド騎士団が勝つことなく、5試合目まで進んだ。


「また負け、か。ふっ、この悪い流れ、僕が断ち切ってこよう」

「頑張れ、ネイサン!」


 目を伏せながら、ネイサンは自信満々な笑みを浮かべて、前に出る。
 言動だけ聞くと才能ある新人のように聞こえるけど、訓練の様子を見た感じ、ネイサンも例によって下手な部類だ。
 相手も新米の騎士とは言え、素質の差が試合結果に現れている今、ネイサンが勝つことは期待できないだろう。


「始め!」


 ネイサンは、開始の合図を聞くなり体をひねって、剣をくるりと回転させたあとに相手へ切りかかった。
 無駄すぎる変な動きに相手は面食らっていたものの、ネイサンの剣を弾くようにガードして、逆に攻撃する。
 振り下ろされた剣を、ネイサンは上体をそらしながら受け止めて、「くっ」と上に払った。


「やりますね……」

「はぁ……?」


 ネイサンは間違いなく変人だ。
 自己完結型で他人に絡むタイプではないから、私にとっては無害な存在だけど。
 もう見ていられない、とため息をつきながら目をそらすと、ちょうどキース団長が視界に入った。
 腕を組んで試合の行方(ゆくえ)を見守っているキース団長は、ネイサンを見てバカにするような微笑(ほほえ)みを浮かべている。

 まぁ、気持ちは分からなくもないけれど……。
 そんなあからさまな顔をしなくても、と思っていると、キース団長の視線は向かいのアリスター団長へと移った。
 そして、勝ち誇ったような笑みがその顔ににじみ出る。


「うわ……」


 お兄さまをいじめてた人たちと同じ顔してる……。


「勝者、スイセン騎士団!」

「そん、なっ……!」

「くそっ、また負けかよ……!」


 隣で悔しがっているトムを見て、熱心だなぁと思う。
 中央でひざをついていたネイサンは、立ち上がってとぼとぼとアリスター団長のもとへ戻った。


「よく頑張った、ネイサン。次はどうやったら勝てるか、あとで一緒に考えよう!」

「はい……団長」


 アリスター団長は口角を上げて、ネイサンの肩をポンとたたく。
 それからこちらを見て「トム! 次はきみだ」と声を張った。


「気負わなくていい。トムにできることを、1つ1つ、ていねいにやるんだ」

「はいっ!」


 気合を入れて応えるトムを見て、アリスター団長は、にっこりと笑う。


「頑張れ、トム」

「おう! ありがとな」


 私も声かけだけしておくと、トムは笑って剣を取りにいった。

 さて、一方のスイセン騎士団は……。
 ちらりと目を向けると、キース団長が新人騎士たちに声かけをしているところだった。


「いいぞ。その調子で……」


 “マリーゴールド騎士団をたたきのめせ”と告げているのを、私の地獄耳はとらえる。
 アリスター団長との対比で、あの人がイヤな人間だというのはよぉく分かった。
 キース団長は、アリスター団長ごと、マリーゴールド騎士団を見下している。
 うちは落ちこぼれ騎士の集まりなんだから、仕方ないとは思うけど……。
 それだけじゃない悪意があることは、あの嘲笑(あざわら)うような顔を見れば丸分かりだ。

 気に食わないなぁ……いじめっ子という人種は、何歳になっても。


「両者、構え!」


 審判の声を聞いて、トムとスイセン騎士団の新人は剣を構える。
 審判が「始め!」とさけぶと、トムと相手は同時に剣を振り下ろした。
 ガキィンッ!と甲高(かんだか)い音が響いて、2人は剣に力を込めるように少し前のめりになる。
 両者共に押し切れないと悟ると離れ、相手は剣を水平に構えて、突きをくり出した。
 トムは剣を垂直に構えて、剣の腹で剣先を受け止めると、勢いに押されるようにずりずりと後退する。


「く、ぅ……っ!」


 あの防御の仕方は悪手だなぁ……。
 突きと比べて力を込めづらいから、すぐに突破されるはず。
 私の予想を裏付けるように、トムは押し切られて、相手の追撃を避けるために上体をそらした。
 その結果、バランスを崩してしまい、尻もちをつく。
 慌てて剣を前に向けても、かんたんに弾かれて、胸に剣先を突きつけられた。


「勝者、スイセン騎士団!」


 審判の宣言を聞いて、ひっそりとため息をつく。
 マリーゴールド騎士団は、1勝もできないまま終わるかもしれないなぁ……。


「どうした、アリスター“団長”。きみの部下はその程度か?」


 トムとスイセン騎士団の新人が待機場所に戻ると、キース団長は、つんとあごを上げて見下すように笑った。


「やはり、“あまりもの”では質が悪いようだな。ふっ、きみが選抜会議の日付を誤解(ごかい)していなければ、もう少し……」

「えぇ、それは僕の確認不足でした。ですが、キース団長、僕は皆さんから与えられた部下を大事に思っています」


 キース団長の言葉をさえぎって、アリスター団長はあごを引きながら笑みを浮かべる。
 (りん)としたその視線は、“それ以上侮辱(ぶじょく)するな”と、けん制しているようにも受け取れた。
 ぴくりと眉を動かしたキース団長は、笑みを消してこちらに背中を向ける。

 アリスター団長は、強い人みたいだ。
 私は団長どのを見直しながら、続く試合の様子を見守った。


第1章 マリーゴールド騎士団

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