男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
8,マリーゴールド騎士団、第一の客人は敵か味方か?
昼食を済ませて訓練場に戻ると、訓練が再開するというタイミングで団体客が訪れた。
「調子はどうかね、マリーゴールド騎士団団長、アリスター・カルヴァートよ」
全員そろったのを確認して、今にも訓練再開を言い渡すところだったアリスター団長は、パッと笑顔を浮かべて振り向いた。
水色の制服に身を包んだ一行の先頭に立っているのは、紫色の髪につり目の男性。
「キース団長どの! おかげさまで、よい部下に恵まれました」
胸に手を当てて礼をした団長どのにならって、みんなも礼をするものだから、私も格好だけは
先頭に立っている彼がスイセン騎士団の団長みたいだ。
あの人も、団長職についているわりには、なかなか若く見える。
せいぜい20代後半といったところではないだろうか。
「それはなによりだ。我が騎士団から独立したきみへの助けになればと思って、スイセン騎士団の新人を連れてきた」
「それは光栄です! キース団長の
“キース団長の提言があってこそ”……ねぇ。
ちらりとキース団長の顔を見ると、彼は少しだけ笑みを浮かべて口を開いた。
「あぁ。どうだろう、うちの新人と、きみのところの新人で練習試合をするというのは」
「練習試合、ですか。少々早い気もしますが……いい経験になりそうです。ぜひお願いします」
アリスター団長がキース団長に向かって、
ランニングだとか素振りだとか、体力勝負の訓練よりは楽かもしれないけど……。
向こうの団長、こちらを見下しているのがバレバレな、イヤな目をしている。
「スイセン騎士団と練習試合だなんて……緊張するなぁ、ショーン」
「あぁ、うん……そうだな」
トムと小声で話して、私は訓練場の端へと、みんなと一緒に向かった。
“新人”というからには、私やトム、ネイサンなんかが出場選手となる。
昼休憩の間に、体力はいくらか回復したけど……勝つか負けるかは、他の団員がおこなう試合の
「……気をつけろ。スイセン騎士団は……あまり、いいうわさを聞かない」
「ニック先輩?」
うしろから声をかけられて、トムと一緒に振り向くと、ニック先輩はアリスター団長に視線を向けていた。
「……スイセンの、ヤーノルド団長は……カルヴァート団長を嫌っている、と……」
「有名だったんですね」
ため息混じりに言葉を引き継いで、“ヤーノルド”か、と反対側にいるキース団長を盗み見る。
貴族の中では一番
それなら、若くして団長になっても、発言力が強くても不思議ではないけれど。
アリスター団長だって、貴族の中では上から2番目の
「……カルヴァート団長は、剣の天才だから……」
「ふっ……であれば、僕も目をつけられてしまうかもしれませんね」
横の髪をさらりと払ったネイサンのナルシスト発言を聞き流して、私はニック先輩に半歩近づいた。
「うちの団長どのが“剣の天才”って……本当なんですか?」
「……あぁ。あの方と並んで……王国の、二大騎士になると言われていた……」
あの方?
気になることがまだあったのに、アリスター団長から集合をかけられて、私とトム、ネイサンは走って移動する。
「みんな、気楽に
「「はい!」」
アリスター団長から作戦……とも言えない、心得を聞いたのち、1人ずつスイセン騎士団との練習試合に挑んでいく。
それにしても、アリスター団長が“剣の天才”だなんて……まだ剣を扱うところを見てないから、にわかには信じられないなぁ。
まぁ、マリーゴールド騎士団の質とか、待遇を見て団長の腕を決めつけるのは早計だったかもしれないけれど。
「勝者、スイセン騎士団!」
「えっ」
訓練場に響き渡った声を聞いて、中央に意識を戻すと、オレンジ色の制服を着た騎士が尻もちをついて、剣先を向けられていた。
もう負けちゃったんだ……。
「くっそー、強いな。すぐに勝負がついちまった」
「ふっ、僕ならもっと
「次の者、前へ!」
1戦目を担当した2人がそれぞれの待機場所に戻って、新たな新人騎士が中央へ歩み出る。
使うのは、刃を潰した練習用の剣。
2人が剣を構えると、審判を担当しているスイセン騎士団の男性が「始め!」と声を張った。
瞬間、スイセン騎士団の新人が距離を詰めて、剣を振り下ろす。
うちの新人は慌てて防御の体勢をとり、ガキンッという音を響かせたものの。
次の行動も、スイセン騎士団の新人のほうが速くて、切りかかってくる相手に防戦一方だった。
そして、防御がどんどん遅れていくから……。
「勝者、スイセン騎士団!」
剣を構えるのが間に合わず、がら空きの胴体に剣先を突きつけられる。
これは……うちが負け越して終わり、かな。
私の推測では、このマリーゴールド騎士団は落ちこぼれ騎士の集まりだから。
非情な考えでも、私はそう思って目をそらした。
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