男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

7,マリーゴールド騎士団の秘密

約2,000字(読了まで約6分)


 次の訓練では、刃を潰した練習用の剣が配られた。
 ひざに手をつきながら聞いた説明によると、これから素振りを50回するらしい。
 トム、ネイサン、ニック先輩と並んで、アリスター団長の「始め!」という声を聞くと、両手で持った剣を振り下ろす。
 すると、弱った体が剣の重さに引きずられて、前に出した足が左にずれた。


「はぁ、はぁ……」

「頑張れ、ショーン……!」


 トムに隣から応援されて、剣を元の位置に構える。
 もう疲れで、下手なフリをするとかの小細工をしていられない。
 私は肩で息をしながら、回数を数えるみんなのかけ声に少し遅れて、何回も剣を振り下ろした。


「トム、もう少しわきを(わき)めてみるんだ。いいぞショーン、剣筋がきれいだ。遅れてもいいから1回1回ていねいに」


 訓練場を回りながら指示を出しているアリスター団長の声を聞いて、ふぅ、と息をつく。
 遅れてもいいと言うなら、お言葉に甘えてもう少しゆっくりやろう。
 ちらりと他の団員の様子をうかがうと、バラバラに剣を振り下ろしているのが見えた。
 アリスター団長の指示が飛ぶと、1人1人動きがきれいになっていくものの……。

 もしかしてマリーゴールド騎士団って、全体の練度が低い?
 上手いか下手かで言えば、みんな下手に見えるのだけど……。

 最初に目にしたあのおんぼろ宿舎を思い出し、なるほど、と思う。
 この新設騎士団は、落ちこぼれ騎士の集まり、というわけだ。
 そんな騎士団を任されたアリスター団長のレベルも、たかが知れている……。

 ……はずなのだけど、その団長どのが先ほどから飛ばしている指示は、どうも的を射ているように聞こえるのが不思議で仕方ない。

 アリスター・カルヴァート。
 ただの左遷(させん)された騎士ではないのかな……?


****


「はぁっ、はぁっ」


 もう、動けない……!
 午前中の訓練を終えたころには、私は滝汗を流してひざに手をついていた。


「よし、みんなよく頑張った! 昼休憩に入ろう」

「「はい!」」


 楽をしようにも、3周、4周と遅れてくると逆に目立ってしまって、頑張ってついていく他なかった。
 やっぱり訓練自体をサボるのが、私が楽できる道……!?


「ショーン、お疲れ! 昼飯食べに行こうぜ」


 パシン、とトムに背中をたたかれてよろめく。
 私は息も絶え絶えに「あぁ……」と返事をして、トム、ネイサン、ニック先輩と一緒に、宿舎へ昼食をとりに戻った。

 落ちこぼれ騎士団と言えど、体力面でワースト1位なのはどうやら私らしい。
 疲れのあまり昼食がのどを通らないのは私だけみたいだから。


「みんなも家のために騎士団に入ったのか?」


 トムがパンをちぎりながら、みんなの顔を見回した。


「ふっ……それが男爵(だんしゃく)家に生まれた男児の宿命だからね」

「……あぁ」

「自分もそうだ。じゃなきゃ、こんな体力勝負の仕事に()かない……」

「ショーンはひ弱だもんな……入団試験に受かってよかったな!」

「まぁ、死ぬ気で頑張ったし……」


 数日、筋肉痛で動けなくなったのを思い出して、遠くを見る。
 こうなるくらいなら、ノアに剣術を教わっていたときも、体づくりの訓練をサボらなければよかったかも……。
 いいや、そもそもお兄さまが逃げなければ私がこんな目にあうことはなかったんだ。
 全部あのヘタレ兄のせいだ。

 恨みをかみしめるように、スープをお腹に入れて、小さくちぎったパンを一口食べた。


「ところでうちの団長ってさ、かなり若いよな? 侯爵(こうしゃく)令息にしたって、団長になるの早くないか?」

「……3年前、入ってきた。今、19」

「え」

「僕の1つ上か……光栄だね」

「ネイサン、18なのか!? ショーンは!?」

「……16」


 本当は15歳だけど。
 というか、アリスター団長が19歳って……異例にも程がない?
 騎士団に入って3年で団長に昇進なんて、経歴だけ聞けば相当な鬼才ということに……。


「よかったー、ショーンは同い年だな。ニック先輩は? いつから騎士団にいるんですか?」

「……23。今年で、6年目」

「大先輩ですね」

「我々に課せられた、5年の縛りはもうクリアしているわけですか。ふっ……」

「……俺は、クビになるまで、続ける」


 自分から騎士団に残るなんて物好きだなぁ……。
 私は5年経ったら、なにがなんでも辞めるつもりだけど。


「俺も5年以上続けることになるだろうなー。でもラッキーだぜ! 優秀な団長の下で働けるなんて」

「そうだね。役職に見合わない年齢は、それだけ才能がある証……ふっ、この僕が所属する騎士団にふさわしいよ」


 どうかな、団員が落ちこぼればかりじゃなければ、その通りかもしれないけど。
 アリスター団長の身分だけが高くて、扱いに困った結果かもしれないし、才能を見込んでの、団長どのへの試練なのかもしれないし。
 マリーゴールド騎士団が作られた真意は分からない。

 ……まぁ、私にはそんなこと関係ないか。
 ため息をついて、私はスープを飲みながら、昼食の時間を休息にあてた。


第1章 マリーゴールド騎士団

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