男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
6,騎士団の訓練はハード?
「ショーン……かまわない、頭を上げてくれ。それよりも、名前と得意なこと、好きな料理を聞かせてくれないか?」
自分より身分が低い新米騎士にビンタされたことなど、まったく気にしていないような明るい声が耳に入る。
顔を上げてみたら目が笑っていなかったり……なんてことがあるかもしれない。
私は恐る恐る背筋を伸ばして、目を伏せながら答えた。
「ショーン・ローズです。得意なことはサボ……じゃなくて、よく寝ること。好きな料理はコーンスープです」
「うんうん、いいぞ。次!」
「はい! 自分は――」
薄目を開けてアリスター団長の顔を見ると、ほおにビンタの痕を残したまま、目を輝かせて口角を上げていた。
うれしさをこらえきれない……というような表情に見えるけど。
私のこと、本当に気にしてないのかな……?
今後の人生に関わるから、
自己紹介とアリスター団長の演説が終わると、さっそく最初の訓練が言い渡される。
「まずは訓練場の中を10周走ってもらう!」
「「はい!」」
きた、体力勝負の訓練……。
あからさまにならない程度にサボりたいけど、もう1回やらかしてしまってるし。
やっぱり想定より頑張らないと、アリスター団長に目をつけられる可能性が高いだろうなぁ……。
訓練場の端に移動する他の団員たちに続こうとすると、「ショーン」とアリスター団長に呼ばれる。
「は、はい……申し訳ありませんでしたっ」
「いや、僕こそすまない。反省したんだ、体に触られるのがイヤな者もいて当然だ、と。これからは断りなく触れないようにする」
「いや……」
そういうことではないのだけど。
「どんなふうに筋肉がついているのか、見たかったんだ。ショーンたちは僕の大事な部下だからな」
苦笑いされて、先ほどまでうれしそうな顔をしていた理由が分かった。
純粋な人だなぁ……。
「まず体をつくることが、剣士として上達するための第一歩だ。ショーンは成長の余地がふんだんにあるから、基礎訓練を頑張れ」
イヤです。
という本音は胸の中にしまって、私は「はい」と答えた。
みんなが集まっている訓練場の端に合流すると、髪を短く切っている、そばかす顔の男性に声をかけられた。
「ショーンだっけ? 団長の顔にあの痕つけたのお前か? なにやったんだ?」
「いや、出会い
「あぁ、あれか! 俺もやられたぜ」
年が近そうなそばかす顔の男性は、ハハハッと笑って胸をたたく。
「でも、ショーンも
「まぁ、許容範囲なんて人それぞれだし……自分も男爵家の人間だ」
「やっぱり? ローズって聞き覚えある気がしたんだよなー!」
トムのファミリーネームはなんだったっけ……?
誰の自己紹介も頭に入らなかったからなぁ、と思っている間にランニングが始まって、私は
緩くやればいいものを、みんな最初で気合が入っているせいか、速いペースで走るから、私もついて行かざるをえない。
「さっきの会話が聞こえたのだけれど、きみたち、男爵家の出なんだって? 僕もそうなんだ。ネイサンと言う、よろしくね」
先頭、もう少しペースを落とせ……!と念じながら走っていると、横から声をかけられる。
隣を見ると、肩まで髪を伸ばしている、細目の男性がいた。
彼のファミリーネームも、例によって記憶にない。
「……俺も。ニック」
「あ、さっき俺のうしろに並んでた2人だな! みんな男爵家なんて奇遇だな~!」
まぁ、貴族の中では男爵家が一番多いし。
そんなことを思いながら、話に混ざってきたもう1人の顔を見る。
ニックは色黒で体格がいい男性だった。
太眉で、あごが四角い。
ネイサンは歳が近そうに見えるけど、ニックのほうは年上に見える。
「みんな、今年から騎士になったのか?」
「おう!」
「まぁね」
「……カラスウリ騎士団にいた」
「なにっ、じゃあ先輩か! 失礼しました!」
「……いい」
なるほど。
20代、30代に見える男性もちらほらいたからそんな気はしてたけど、他の騎士団から異動してきた団員もいるわけだ。
「ふぅ……はぁ……」
「ショーン、もう息が上がってきたのか? 体力ないな~」
「ペースが、速いから」
「……いつも、これくらいだ」
「えっ」
そんなまさか。
これから毎日この速さで走らされるっていうの!?
「顔色が悪いよ、ショーンくん?」
「大丈夫、ちょっと絶望しただけだ……」
「いや、それ大丈夫じゃなくないか!?」
どんどん遅れていくのを3人に心配されつつ、私は周回遅れになりながらも訓練場を走り切った。
手を抜かなくても訓練についていけないから、かんたんにサボれないのが辛い……!
自分の身体能力の低さと、騎士団の訓練の厳しさをなめてた……。
私はひざに手をついて、体全体で息を整えながら、訓練自体をサボる方向で策を練った方がいいかもしれない……と考えた。
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