男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
13,月夜の下、甘く迫 られて
みんなの酔いが回って、話し声や笑い声が際限なく大きくなってくると、酒場にいるのがイヤになってきた。
私はさわがしい場所にいるより、静かな場所で1人寝ているほうが好きなのに。
「ノアさんの武勇伝聞かせてくださいよ!」
「ショーンの他には弟子をとらないんですか?」
「はぁ?」
ついに、私の隣にいるノアが囲まれ出したので、そっと席から離れる。
お腹も膨れたし、外に出て1人でのんびりしようかな。
私は音を立てないように、そして酔っぱらった団員たちに絡まれないように息を殺しつつ、酒場の外に出た。
「ふぅ……やっと解放された」
空を見上げると、きらめく星の海に満月が浮かんでいた。
扉の横の壁に背中を預けるように立って、空をながめながらそよ吹く風を感じていると、横の扉が開く。
「ショーン、どうした? 気分が悪いか?」
「団長……いえ、さわがしくなってきたので、1人でのんびりしようかなと」
「そうか。僕も一緒にいてもいいか?」
「いいですけど……団長が席を外していいんですか?」
「大丈夫だ、みんな楽しくやっているからな」
アリスターは笑って私の隣にくると、空を見上げて「きれいな月だな」とこぼした。
そんなことを言っているアリスターの横顔も芸術品のようなのだけれど。
「……団長、婚約の件、ありがとうございます。おかげで全部上手くいきましたし、ほとぼりが冷めるまで、という条件にもしてくださって」
「きみが頼ってくれたんだ、当然、応えるさ。それに、あんなに
アリスターは私に顔を向けて、苦笑いする。
「気持ちがともなっていないのは分かるからな。僕はシャノンと、無理に婚約したいのではない」
「まぁ……その……」
アリスターの告白も、ノアの告白も、喜んで受け入れるには苦労が見えすぎているし。
「……だが、きみがどうして僕を選んでくれたのかは気になるな。ノアにだって、婚約を申し込んでもらうことはできただろう?」
「……ノアは、家を出た身だと言っているので」
確かにその方法もあったのかも、と思いながら、そう考えることができなかった理由を話すと、アリスターはじっと私を見つめてきた。
な、なんだろう……そうやって見つめるのは、やめて欲しいな……。
「僕の告白をイヤに思っていたら、きみはノアに頼っていたはずだ。そう考えると、少しは僕の気持ちを受け入れてくれていると思っていいのか?」
「えっ? い、いや……その……一番負担が少ない選択をしただけで……そういうわけでは……!」
「そうか。僕と婚約するのは、きみにとって負担が少ない選択なんだな」
「う……いえ、侯爵夫人になるのはイヤなんですけど……団長ならもしかして、楽をさせてくれるんじゃないかと思っただけで……」
「シャノンにとって、居心地のいい男になれていたならうれしい。もちろん、僕はきみに負担をかけるようなことはしない」
アリスターの視線に耐えられなくなって、私は目をそらしながら口を開いた。
「ふ、負担をかけないというなら、そうやって、好意を示すのはやめていただけませんか……っ」
「……すまない、負担だったか?」
答える声があからさまにシュンとしていたので、慌ててフォローする。
「い、いえ、その、イヤなわけではないんですけど、私には縁のないことだと思っていたので、反応に困るというか……!」
「……イヤでは、ないんだな。……きみの、ありのままの心を見せてくれればいいんだ。僕に抵抗があるなら拒否してくれてかまわないし、」
ほおに温かい手が触れて、顔の位置を戻された。
「少しでも
「っ、ありのまま、と言われても……分からない、ですっ……」
分かるのは、アリスターに好意を示されると、平常心ではいられなくなるということだけで。
困るからやめて欲しい、というのが、私の本心ということでいいの……っ!?
視線を落として、動揺を隠せずにいると、アリスターが私の顔をのぞきこんだ。
「シャノン。その可愛い顔が、今のきみの答えだと思っていいのか?」
「こ、答えっ……?」
私が、どんな顔をしてるって言うの!?
アリスターはうれしそうに笑って、甘い声を発する。
「それならば……僕たちの婚約は、現状維持としないか? シャノンがイヤだと思うそのときまで、僕の婚約者のままでいてくれ」
「で、でもっ、ほとぼりが冷めたら解消していいって……!」
「僕としては、シャノンの婚約者という立場は誰にも渡したくない。きみを振り向かせることができたら、僕と結婚して欲しい」
「けっ……!? さ、さっきは無理に婚約したいんじゃないって……!」
「僕が見たところ、今は少なくとも、イヤがられてはいないようだからな」
私がイヤがってない!? アリスターとの婚約を!?
うそでしょ、そんなわけ……っ。
「きみの心のすべてを、必ず奪ってみせる、シャノン」
挑戦的な笑みを浮かべるアリスターにまっすぐ見つめられて、ドクンと心臓が音を立てた。
鼓動が速くなっているのも、体が熱くなってきているのも、きっと気のせいだ。
アリスターの気持ちがイヤじゃないと感じてしまったのだって、気のせいに違いない。
私がアリスターを好きになりかけているなんて、そんなこと……。
(※無断転載禁止)