男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

13,月夜の下、甘く(せま)られて

約2,300字(読了まで約6分)


 みんなの酔いが回って、話し声や笑い声が際限なく大きくなってくると、酒場にいるのがイヤになってきた。
 私はさわがしい場所にいるより、静かな場所で1人寝ているほうが好きなのに。


「ノアさんの武勇伝聞かせてくださいよ!」

「ショーンの他には弟子をとらないんですか?」

「はぁ?」


 ついに、私の隣にいるノアが囲まれ出したので、そっと席から離れる。
 お腹も膨れたし、外に出て1人でのんびりしようかな。

 私は音を立てないように、そして酔っぱらった団員たちに絡まれないように息を殺しつつ、酒場の外に出た。


「ふぅ……やっと解放された」


 空を見上げると、きらめく星の海に満月が浮かんでいた。
 扉の横の壁に背中を預けるように立って、空をながめながらそよ吹く風を感じていると、横の扉が開く。


「ショーン、どうした? 気分が悪いか?」

「団長……いえ、さわがしくなってきたので、1人でのんびりしようかなと」

「そうか。僕も一緒にいてもいいか?」

「いいですけど……団長が席を外していいんですか?」

「大丈夫だ、みんな楽しくやっているからな」


 アリスターは笑って私の隣にくると、空を見上げて「きれいな月だな」とこぼした。
 そんなことを言っているアリスターの横顔も芸術品のようなのだけれど。


「……団長、婚約の件、ありがとうございます。おかげで全部上手くいきましたし、ほとぼりが冷めるまで、という条件にもしてくださって」

「きみが頼ってくれたんだ、当然、応えるさ。それに、あんなに切羽(せっぱ)詰まった顔で婚約して欲しいと言われたら……」


 アリスターは私に顔を向けて、苦笑いする。


「気持ちがともなっていないのは分かるからな。僕はシャノンと、無理に婚約したいのではない」

「まぁ……その……」


 侯爵(こうしゃく)夫人になってしまったときの大変さを考えたら、それはイヤイヤになってしまうのも仕方ないというか。
 アリスターの告白も、ノアの告白も、喜んで受け入れるには苦労が見えすぎているし。


「……だが、きみがどうして僕を選んでくれたのかは気になるな。ノアにだって、婚約を申し込んでもらうことはできただろう?」

「……ノアは、家を出た身だと言っているので」


 確かにその方法もあったのかも、と思いながら、そう考えることができなかった理由を話すと、アリスターはじっと私を見つめてきた。

 な、なんだろう……そうやって見つめるのは、やめて欲しいな……。


「僕の告白をイヤに思っていたら、きみはノアに頼っていたはずだ。そう考えると、少しは僕の気持ちを受け入れてくれていると思っていいのか?」

「えっ? い、いや……その……一番負担が少ない選択をしただけで……そういうわけでは……!」

「そうか。僕と婚約するのは、きみにとって負担が少ない選択なんだな」

「う……いえ、侯爵夫人になるのはイヤなんですけど……団長ならもしかして、楽をさせてくれるんじゃないかと思っただけで……」

「シャノンにとって、居心地のいい男になれていたならうれしい。もちろん、僕はきみに負担をかけるようなことはしない」


 微笑(ほほえ)んで見つめながら、向かい合うように体の向きを変えられて、鼓動が速くなってくる。
 アリスターの視線に耐えられなくなって、私は目をそらしながら口を開いた。


「ふ、負担をかけないというなら、そうやって、好意を示すのはやめていただけませんか……っ」

「……すまない、負担だったか?」


 答える声があからさまにシュンとしていたので、慌ててフォローする。


「い、いえ、その、イヤなわけではないんですけど、私には縁のないことだと思っていたので、反応に困るというか……!」

「……イヤでは、ないんだな。……きみの、ありのままの心を見せてくれればいいんだ。僕に抵抗があるなら拒否してくれてかまわないし、」


 ほおに温かい手が触れて、顔の位置を戻された。
 (りん)とした笑みを浮かべながら見つめられて、ほおが熱くなってくる。


「少しでも()いと思ってくれているなら、僕の気持ちに応えて欲しい。何回でも伝えるよ、僕はシャノンが好きだ」

「っ、ありのまま、と言われても……分からない、ですっ……」


 分かるのは、アリスターに好意を示されると、平常心ではいられなくなるということだけで。
 困るからやめて欲しい、というのが、私の本心ということでいいの……っ!?

 視線を落として、動揺を隠せずにいると、アリスターが私の顔をのぞきこんだ。


「シャノン。その可愛い顔が、今のきみの答えだと思っていいのか?」

「こ、答えっ……?」


 私が、どんな顔をしてるって言うの!?

 アリスターはうれしそうに笑って、甘い声を発する。


「それならば……僕たちの婚約は、現状維持としないか? シャノンがイヤだと思うそのときまで、僕の婚約者のままでいてくれ」

「で、でもっ、ほとぼりが冷めたら解消していいって……!」

「僕としては、シャノンの婚約者という立場は誰にも渡したくない。きみを振り向かせることができたら、僕と結婚して欲しい」

「けっ……!? さ、さっきは無理に婚約したいんじゃないって……!」

「僕が見たところ、今は少なくとも、イヤがられてはいないようだからな」


 私がイヤがってない!? アリスターとの婚約を!?
 うそでしょ、そんなわけ……っ。


「きみの心のすべてを、必ず奪ってみせる、シャノン」


 挑戦的な笑みを浮かべるアリスターにまっすぐ見つめられて、ドクンと心臓が音を立てた。
 鼓動が速くなっているのも、体が熱くなってきているのも、きっと気のせいだ。
 アリスターの気持ちがイヤじゃないと感じてしまったのだって、気のせいに違いない。

 私がアリスターを好きになりかけているなんて、そんなこと……。


第4章 人生をかけた騎士団対抗戦

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