男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
12,酒場の打ち上げ
Side:シャノン・ローズ
「それでは、乾杯!」
「「乾杯!」」
アリスターが貸し切った酒場にて、フルーツジュースが入ったジョッキを持ち上げる。
騎士団対抗戦が終わって、空が暗くなったころ。
私たちマリーゴールド騎士団は、全員で打ち上げをしていた。
「まさかマリーゴールド騎士団が4勝もするなんて!」
「ノアさんがいるんだ、当たり前じゃないか!」
「ショーンだって大活躍だったぞ! 最後なんて1人で4人も倒したんだ」
騎士団対抗戦には不参加だった団員たちが、わいわい話している声を聞きながら、私はジョッキに口をつけてジュースを飲む。
結構美味しいなぁ、これ。
「……お疲れ、ショーン」
「ニック先輩。ありがとうございます」
「本当にお疲れさまだぜ、ショーン! スイセン騎士団の騎士を瞬殺していって、リーダーにも勝ったときは胸が熱くなったぞ!」
「まったくだよ。ショーンくんの秘められた力にはいつもおどろかされるね」
「トムとネイサンも、ありがとう。スイセン騎士団に勝てたのは、みんなが協力してくれたおかげだけどな」
男爵家仲間の3人に声をかけられて、
ニック先輩は不参加だったけど、トムたちにはよく助けられた。
私の秘密を知っている以上、騎士団対抗戦だけじゃなく、これからもこの3人には助けてもらうことが沢山あるだろう。
「俺には感謝の言葉はないのか」
「……ノアにも感謝してます」
当然のように隣の席に座っているノアを横目に見て、あきれながらも、心からの言葉を口にする。
騎士団対抗戦でも、スイセン騎士団の騎士に襲われた件でも助けてもらったし。
しばらく激しい運動をしなければ大丈夫とのことだったけれど、頭に巻かれている包帯を見ると、少し胸が痛む。
ノアが満足そうに微笑んで、ジョッキに口をつけようとすると、「おっと」とアリスターが手を被せた。
「ノア、それはエールだろう。傷に
「……目ざといですね。俺もエールを飲むくらいの働きはしたと思いませんか」
「傷が治ったら、ノアにも酒をおごるさ。今日はショーンをさみしくさせないためにも、ジュースで我慢してくれ」
「さみしいとは思いませんけど」
お酒の味を知っているわけでもない身からすれば、周りが全員お酒を飲んでいたとしても、特に飲みたいと思わないし。
「ははっ、それじゃあノアを納得させるために、一緒に飲んであげてくれないか」
「団長どのがそこまで
「俺は子どもじゃありませんよ」
にこにこ笑うアリスターに対して、ムスッとしたノアの顔を見ると、口元が緩んだ。
いつも通りの日常だ。
私が自分の手で守った。
……いや、騎士団生活を守ったわけじゃなくて、私の将来を守っただけなんだけど。
「子どもだなんて思っていない。またあとで来る、ショーン、ノアがエールを飲まないように見張っておいてくれ」
「分かりました」
「だから俺は子どもじゃないと」
文句を言うノアを笑顔であしらって、アリスターは他の団員に声をかけに行く。
「まったく」とぼやいたノアは、ジョッキを持ち替えて、ジュースをのどに流し込んだ。
「……ノア。ありがとうございました」
「なんのことだ?」
「剣が降ってきたときのことです」
私に不満を抱いていたはずなのに、迷いなく守って、自分が代わりに怪我をして。
私がいなければ、ノアは怪我することなく対処できたはずなのに。
沢山の料理が乗ったテーブルに視線を留めると、くしゃっと、頭をなでられた。
「お前を守るのは、当然のことだ。それに、動揺した顔も見れたからな。むしろ派手に怪我をしてよかった」
「は?」
「ふっ、そんな態度でも、ショーンは俺のことをかけがえのない存在だと思っていることがよく分かった」
「……」
気に食わない。
あれは、そうかんたんに怪我を負わないはずのノアが、めずらしく怪我をしたから
別に、ノアに対してそんな大層な感情は持ち合わせてない。
「アリスター団長と勝手に話を進めたことは許してやろう。ただの契約で終わるなら、俺にもまだチャンスはあるからな」
「……ノアに許してもらう必要があることでもないと思いますけど」
「なんだと? お前は俺の言葉を軽くとらえているようだな」
ノアは美しい顔に不機嫌な色を浮かべて、私の肩を抱き寄せた。
誰にも聞かれないよう、耳元にノアの口が寄せられたことが、聞こえる声の近さで分かる。
「俺はシャノンが好きだと言っているだろう。シャノンが一度アリスター団長を選んだからと言って、諦めるつもりは
「……そういうことを言われても、困ります。自分には縁のないことだと、ノアはよくお分かりでしょう?」
「そんなことは知らないな。俺とシャノンの間にある縁だ」
「自分はただの
「これから考えを改めればいいだろう」
だから、困るんだってば。
ノアに告白され続けると、どういう関係だと定義すればいいのか分からなくなるし。
「シャノンにとっても俺がかけがえのない存在なら、俺を捕まえておけ」
「……それは、ノアが勝手に言ってるだけでしょう」
頭から血を流したノアの姿を思い出して、ほんの少しだけ考えてしまったことは、絶対に、ノアには言わない。
私はノアの体を押しのけて、気を持ち直すように、テーブルの上の料理に手を伸ばした。
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