男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
14,シャノンを愛する2人の男
「アリスター団長。婚約に引き続き、抜け駆けとは、ひきょうですね。俺が知っているあなたは、正々堂々と戦う方だったはずですが?」
「の、ノア……っ」
「ズルをしたつもりはない。僕はいつだって、正面から戦っているさ」
開いた扉の向こうから姿を現したノアを見て、なぜか悪いことをした気分になる。
私を挟んで、ノアとアリスターがバチバチと視線を
……いやいや、私が気まずい思いをする道理なんてないはずでしょ!?
「ならば、シャノンを渡してください。密会はもう充分でしょう?」
「いいや、ノアがとちゅうで入ってきたせいで、大事な答えを聞けていない」
「ほう、さぞかし大切なお話をしたようですね」
「あぁ、婚約を続けないかと提案した。どうやら僕は嫌われていないようだからな」
「なんですって……?」
やめて、もうやめて……!
ノアの視線が痛いって! アリスターの甘い視線も気まずいって!
困るよこんなの!
「シャノン。まさかアリスター団長を選ぶつもりか?」
「ノアよりも、僕を選んで欲しい。僕は誰よりもきみを大切にして、誰よりもきみを愛すると誓える」
「シャノンを一番愛しているのは俺だ。アリスター団長よりも甘やかしてやる。だから、俺を選べ」
「ちょ、ちょっと待って……っ!」
うしろからも、前からも
「2人に愛されても困りますって! 恋愛初心者の私に選べるわけがないんですから、2人とも諦めてくださいっ!」
「アリスター団長が間に入ってきたせいで、シャノンが抵抗しているじゃないですか。別の女性を見つけてください」
「それは聞けない相談だな。僕にはシャノンしかいない」
「俺の心に入り込んだのも、シャノンだけです」
「私を挟んで言い合いしないでください!」
それも困る内容ばっかり!
逃げ出そうにも、お腹と腰にそれぞれ腕を回されているから、物理的に逃げ道がないし!
私にどうしろって言うの!?
私の要求を一蹴して、今度は私の好きなところを競うように話し出した2人に赤面して耐えていると、ノアを連れ戻しに来たトムたちが顔を出して。
アリスターも私もそろって酒場に連れ戻されたけれど、先ほどの2人の口論を聞いているよりも、さわがしい店内にいるほうがましだった。
私はトムたちを隠れみのにすることで、ノアからもアリスターからも逃げて、その後、無事に一夜を明かしたのだった。
その
****
――ヘタレなお兄さまが見つかったと、アリスターから話を聞いたのは、あの騎士団対抗戦から1年後のこと。
私は本来の性別だけを隠して、お兄さまが
私がいないなら騎士団にいる理由がないと言い放ったノアも
団長であるアリスターは、まったく気にしていないようだ。
それはもしかすると、トムやネイサン、ニック先輩を筆頭として、団員みんなが成長を見せているからかもしれない。
「シャノン、そいつを仕留めろ」
「はいはい……!」
ノアと魔物狩りに来た私は、木々に紛れて飛び回る半鳥人の魔物、ハーピーが近づいてきたところを
腹部に食い込んだ剣は、そのまま魔石をも切り裂いて宙に飛び出る。
落下しながら霧と化すハーピーをながめながら剣をサヤに収めると、うしろから「ノア!」と大きな声がした。
「また僕の不在を狙って、シャノンを連れ出して……! 魔物狩りはほどほどにしてくれと言っているだろう!」
「義妹と
涼しい顔をして答えるノアを見て、私たちに追いついたアリスターはため息をついた。
「まったく」という言葉を皮切りに始まった小言の嵐を、私はそっぽを向いて聞き流す。
実際、あれはノアに向けられたものだし。
マリーゴールド騎士団をやめたあと、私は結局、だらだらと続けていたアリスターとの婚約を公表することになり。
カルヴァート
そこら辺は、まぁ、ノアの強い要望である。
「シャノン、アリスターはすぐ仕事に戻るそうだ。俺と屋敷に帰ろう」
「待て、まだ話は終わっていないぞ!」
「俺からシャノンを奪ったのですから、これくらいは目をつぶってください」
私がアリスターと結婚することに納得したのかと思えば、ノアはまだこんな調子だし。
私を取り合うなぞの
「兄の立場を利用して、シャノンを好きに連れ回してもらっては困る」
「アリスターは“婚約者”でしょう、兄妹のたわむれくらい、大人しく見ていてください」
「ノアは兄の領分を越えようとするから困るんだ」
腰に手をついてため息を吐くアリスターに同意して、
一番距離が近かったノアが対処しようと動くのをながめていると、いつの間にか、アリスターが私の目の前に来ていて。
「シャノン」と呼んだ唇が、はい、と答えようとする私の言葉を奪う。
「今日は早く帰れそうだから、夜にまた会おう。愛してる」
甘く笑う顔を見て、ほおが熱を持ったのは言うまでもない。
「アリスター! 俺がいる前で……!」
「想い合う婚約者なのだから、かまわないだろう? 抜け駆けをしているのはノアも同じだ」
「減らず口ですね。いいでしょう、今ここで戦いましょうか」
「ちょっと、アリスターは仕事があるんでしょう? 帰りますよ、ノア」
とち狂ったことを言い出すノアをなだめて、私はアリスターを逃がした。
1年も2人の言い合いを聞いていれば、多少慣れる部分はあるものだ。
ぶつぶつと文句をこぼしているノアを前にしながら、私は手を振るアリスターに、こっそり手を振り返す。
なんだかんだ試練は絶えないけれど、なんだかんだで、私を甘やかしてくれる味方も2人いるわけだ。
もちろん、貴族の身分に甘んじて、
これからも、最大限アリスターとノアに頼って、私はだらだらと生きていく。
ひとまず、今は……。
「はぁ~、疲れた……」
早く屋敷に帰って、ソファーでごろごろしたい。
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