男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
11,高潔 な騎士
スイセン騎士団の一員として働いている間に、キース団長から嫌われてしまったことは自覚していたが……。
「貴様が、私に
「えぇ、そうです。昔は、そうでした。今のあなたは……尊敬に
胸に突き付けられた剣の腹を手で押しのけると、キース団長はこちらにも聞こえるほど、強く歯ぎしりをする。
「どうして、僕を憎むようになってしまったのですか。あなたにとって僕は、それほど価値のある人間なのですか?」
僕はキース団長に
“憎悪”とは、自分と対等以上の人間に対して抱く感情だろう。
「価値、だと……? 貴様の価値など……」
キース団長は、続く言葉を見失ったように、初めて瞳を揺らした。
僕の言葉は、まだキース団長に届くようだ。
それなら……。
「キース団長にとって、僕はよくて、所有するべき人材ではないですか?」
「所有……するなど、ありえない……貴様は……アリスター・カルヴァートは……」
「周りから賞賛されるほど、僕が
「馬鹿な……貴様は優れた騎士だ……誰よりも……!」
こんな状態に
キース団長は、僕を認めていてくださったのか。心から。
「光栄なことです。もっと早く、そのお言葉を聞けていれば……僕はさらに、高みへ至れたでしょう」
「ふっ……ならば、言わなくてよかった……これ以上優秀になるなど、許さぬ……!」
「……どうしてでしょうか? ヤーノルド公爵家のお方は、優秀な人材を所有することを目的としていらっしゃるでしょう?」
「そうだ……優秀な者は、この手に収める……しかし、それ以上に、我々は……」
キース団長が苦々しく「優秀でなくてはならない」と言ったのを聞いて、ありえないとは思いつつも、ひとつの可能性が浮かんだ。
僕に対して、キース団長が憎悪を向ける理由。
「キース団長……まさか、あなたは僕よりも、ご自身がおとっていると思われているのですか?」
「……っ! 貴様、この私がそのようなことを……!」
「えぇ、思うわけがありませんよね……僕がキース団長より勝っているわけがないのですから」
今の落ちぶれたキース団長には、負けるわけにいかないが……。
やはり気のせいだったな、と気を取り直してキース団長を見ると、キース団長はぼう然としたように固まっていた。
「キース団長?」
「……貴様は、己が私に勝っていると思っていないのか?」
「どうしてそのようなことを? 剣しか特技のない私が、文武両方に秀でたキース団長に勝るわけがないでしょう?」
「……だが、貴様の剣は……」
「ノアや、キース団長を上回れるよう、
自分の剣を見つめて、さらなる高みへ登りたいという気持ちを胸に刻みながら、剣をサヤに収める。
キース団長は再び、目元を手でおおって、ぶつぶつと、なにかをつぶやいた。
「アリスター・カルヴァートは……私だけが……そのようなこと……」
一体どうしたのだろうか……?
「……キース団長が、僕を嫌う理由は分かりません。どうして落ちぶれてしまったのかも。ですが、昔のあなたは立派なお方でした」
「……アリスター、カルヴァート……」
「高潔な貴族であり、高潔な騎士であるあなたを、僕は心から尊敬しています」
胸に拳をあてて、騎士の礼をとりながら、ぼう然としているキース団長を見つめる。
「誰よりも優秀でありながら、誰よりも優秀であろうと努力するあなたの姿を忘れたことはありません。少しでも高潔な精神が残っているならば……」
「……」
「一度約束したことは、最後まで守っていただきますよう、お願い申し上げます」
深々と頭を下げると、サァッと風が吹いた。
ここまで言っても誓いを守ってくださらないならば、キース団長には、ショーンが女性だと盲信している人になってもらうしかない。
先手を打つ必要があるのか見極めるために、僕は頭を上げて、キース団長を見た。
僕が尊敬した、高潔なキース・ヤーノルドさまは本当に死んでしまったのですか?
「……皮肉なことだ。私よりも優れた騎士だと恐れたアリスター・カルヴァートに、誰よりも優秀であると認められるとは」
「……え?」
キース団長は、視線を落として、ふっと、
「当人が敵わないと認めているのに、私はアリスター・カルヴァートより優秀であれないと思い込んでいたのか……」
「キース、団長……」
「ショーン・ローズも、ノア・エクルストンも、私は諦めない。そしてきみもだ、アリスター・カルヴァート」
昔の姿と重なる、知性的で、高貴な身分に見合った自尊心がうかがえる瞳で見つめられて、目を丸くした。
この、言葉の意味は……。
「優秀な人材は、すべて私のものにする。それまで、ショーン・ローズに傷をつけることは許さない」
剣をサヤに収めるキース団長の姿を見て、僕は湧き上がってくる喜びをかみしめる。
「はい! ありがとうございます、キース団長!」
「ふん。まずは、
あごを引いて、背を向けたキース団長を見送ってから、僕も控室のほうに戻った。
通路の先で緊張した
早く、丸く収まったと伝えてあげないとな。
今日はみんなを町に連れ出して、盛大に打ち上げをしよう!
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