男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
10,エキシビションマッチ
Side:アリスター・カルヴァート
キース団長が進行役の騎士に話を通し、僕たちの一騎打ちがエキシビションマッチとして、みんなに紹介される。
思えば、こうやって剣を構えて向き合うのは数年ぶりだ。
幼いころに出会ったときは、このようなお方ではなかったのに……。
落ちぶれた今の姿を見ると、失望も怒りも通り越して、
これから剣を
ヤーノルド公爵家の“所有欲”は好みではないが……雇った人材の誰よりも“優秀であれ”という家訓には敬意を持っているから。
「私に勝てると思うな、アリスター・カルヴァート」
「……それでも、勝たせていただきます」
僕が今、一番守りたい存在はシャノンただ1人。
どうしようもない状況に
襲いかかるのがどんな強敵であろうと、負けるわけにはいかない。
「準備は、よろしいですね。それでは……始め!」
剣先が流れるように下りて、ななめ下から銀色の
至高の
――ガキィン!
「相変わらずの馬鹿力め……」
吐き捨てるようにつぶやいたキース団長の剣を押し切れないと判断すると、腕を引いて剣を離す。
離れた距離を埋めるように、すぐ
僕はキース団長が剣を引くのを待って、防御しにくいだろう位置を狙い、剣を振る。
相手が引いては、攻撃をしかけ、自分が引いては、相手に攻撃をしかけられる。
実力が同等に近い相手とは、総じてそのような戦いになるものだ。
――キンッ!ガキンッ!キィンッ!
すきが生まれやすい場所を狙っても、ガードされる。
キース団長の攻撃もまた、少しイヤな場所ばかりを狙ってきた。
右上から切り下ろし、水平に剣を振り、右下から切り上げ……と、多方向から攻撃しても、耳を鋭く刺すような金属音だけが響く。
どよめく観客の声はかき消されるのに、相手の呼吸は聞こえる、この異様な感覚が僕はたまらなく好きだ。
1対1で向き合って、剣の振り方ひとつ、体の動かし方ひとつで、相手の性格が見えてくるこの感覚は、剣を握っているときしか味わえない。
スイセン騎士団に入ったばかりのころは、キース団長と打ち合うと、高潔さが感じ取れたというのに……。
今は、みにくく、にごってしまっている。
高いプライドだけが残って、大振りな攻撃ばかり。
こちらの甘いガードを突破する、
「あなたの剣は、もっと鋭かったのに」
――ガキンッ!
「貴様に、なにが分かるっ!」
――キィンッ!
「キース団長には、分かりませんか?」
キース団長の剣から伝わってくるのは、いらだちと
周りが見えなくなって、でたらめに剣を振り回しているようにさえ感じる。
長く剣を交えてみれば、それが単純な立ち回りだと分かってしまって、次にどう動くかが、かんたんに予測できた。
振り下ろされた剣を弾けば、左わき腹を狙う攻撃に対して、ガードが甘くなる。
僕が剣を引くと、自分の体勢を立て直す前に、右肩を前に出して剣を振り上げてくるが、体重が乗っていないから……。
ガードしたままキース団長の剣を押し返して、振り下ろし攻撃をしかけることができる。
剣で受け止める時間が残されていないキース団長は身を引くものの、体勢が崩れたままだから、足がもつれてしまい……。
「くっ」
僕の突きを、大振りの剣で強引に弾くことはできるが、その後、瞬時に次の行動に移ることができず、致命的なすきをさらしてしまう。
予測通り、体の外側に剣を投げ出して、胴体ががら空きになったキース団長を見て、僕は剣を引き戻し、胸に切っ先を突き付けた。
「勝者、マリーゴールド騎士団、アリスター・カルヴァート団長!」
ふぅ、と息を吐く僕とは対照的に、キース団長は肩を上下させて、荒い呼吸を繰り返している。
「この、私が……負ける、など……っ」
「キース団長。誓いは、守っていただきます」
無表情で見つめると、キース団長は僕の剣を弾いて、「こんな結果、認めるものか!」とさけんだ。
剣を交えて感じた通りに、顔をみにくくゆがめて、僕の胸に剣先を突き付ける。
「マリーゴールド騎士団に所属する、ショーン・ローズは――!」
「どうして、そのように変わってしまわれたのですか。僕は、キース団長。あなたを心から尊敬していました」
ぴくりと剣先が揺れて、キース団長が僕をにらみつけた。
「雇った人材の誰よりも優秀であれ……その家訓通り、あなたは
「……そうだ、私は誰よりも優秀なのだ。アリスター・カルヴァート、貴様よりも……!」
「スイセン騎士団に入って、キース団長から学んだことは沢山ありました。僕はあなたよりも未熟でしたから」
周りに天才だと
アケビ騎士団にノア先輩が、そしてスイセン騎士団にキース団長がいたからだ。
「あなたには
ナギービの森の件で、僕はキース団長が変わってしまったことを、受け入れざるをえなかった。
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