男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
9,勝敗と、取引の行方
致命傷を負わせるのはご
これで私の勝ち。
そう、思っていたら……。
「っ!」
相手は止まることなく、先ほどのお返しとばかりに、ひざ蹴りをしてきた。
気を抜いてしまったせいで、お腹へのその一撃をもろに食らってしまって、一瞬呼吸が止まる。
審判が勝敗を告げる前に攻撃をしかけてくるなんて……。
そんなに負けを認めたくないなら、今度こそ言い訳がきかない一撃をお見舞いしてあげる!
私は下から相手をにらんで、追撃をしかけられる前に、タックルをしてから離れた。
「くっ……なんて
「そうですか? 今のタックルはアリスター団長から教わったんですけどね」
負けを認めずに攻撃してくるほうが下劣だと思うけど。
剣を構え直した私は、つま先に力を込めて全力で剣を振り下ろす。
相手がガードしてくると、一度剣を引いて突きをくり出し、ガードされた瞬間に剣を少し持ち上げて、上からたたきつけた。
正面から、以外の攻撃を想定していなかったのは、素直に下へたたき落された剣を見れば分かる。
私は剣を体の横に引いてから、無防備になった相手ののど元へ、剣先を突き付けた。
「これで、」
しゃべっているとちゅうに、ななめ下からわき腹を狙う一撃に気づいて、片手で剣を突き付けたまま、相手の剣の腹を蹴り返す。
「終わりです」
いくら
「勝者、マリーゴールド騎士団、ショーン・ローズ!」
「ぐぅっ……!」
審判の宣言を聞きながら、私は剣をサヤに収めて、まっすぐマリーゴールド騎士団の控室に帰った。
これで、騎士団対抗戦に乗じた取引はすべて、私たちの望む結果で終わる。
私の将来も、無事に守られたわけだ。
「ショーン! よくやった!」
通路で待っていた笑顔のアリスターに、くしゃくしゃっと頭をなでられて思わず目をつぶる。
「団長、戻ってたんですか」
「大事な試合を見守らないわけにはいかないからな。心配するな、あの件は通行人に聞き込みをして、目撃証言を集めておいた」
「目撃証言……」
なるほど、そういう方向で追い詰めるんだ。
この様子なら、アリスターに任せておいてよさそうかな……。
「はぁ……」
なにも心配しなくていいと思うと、疲れが襲ってきた。
トムたちが2人倒してくれたからか、案外体力は残っているけれど……お腹への一撃も、少し尾を引いているし。
視線を落としながらお腹をなでると、「痛むか?」とアリスターに聞かれる。
「少し。時間が経てば治ると思います」
「そうか……よく頑張った」
改めて、ぽんぽんと頭をなでられて、なんて返せばいいか迷いながら「ありがとうございます」と口にした。
「シャノン・ローズ……よくも」
アリスターのうしろから聞こえた声に眉をひそめて、振り返ったアリスターと共に、通路の奥に立っているキース団長を見る。
「キース団長……ノアとショーンを襲わせたのは、あなたですか?」
「……ふん、あれは部下が勝手にやったことだ」
不機嫌さを隠し切れていない顔で、キース団長はアリスターをにらむようにして答えた。
こちらのエリアに控室がないスイセン騎士団の団長がここにいるのは……私が負けていたときに、勝ち誇った顔をするつもりだったからだろう。
あの話が通じている時点で、“部下が勝手にやった”と言っているのも信じられないなぁ。
「そんなことよりも、アリスター団長。私はその者の秘密を知っている。それをバラされたくなければ、私と一騎打ちをしろ」
「一騎打ち……ですか」
「キース団長。お話では、マリーゴールド騎士団がスイセン騎士団に勝った時点で、沈黙を守ってくださるという約束でしたが?」
一歩前に出て、キース団長をじっと
「ただの“会話”に意味はない。……どうするのだ、アリスター団長。その者を切り捨てるか? いいや、きみにそのようなことはできないな」
「……いいでしょう。その代わり、誓いを立ててくださいますね。ショーンとの約束のように、
「あぁ、いいだろう。私に勝つことができたらな」
つんとあごを上げて、キース団長はアリスターを見下した。
そんなことを言ったって、一度約束を破った人だ、この話だって知らないフリをするに違いない。
キース団長がなりふりかまわなくなれば、どんな手立てを使っても口をふさぐことはできない……。
せっかく騎士団対抗戦に出て、勝つことができたのに、全部無駄な努力にされるの!?
「……僕は信じています」
「アリスター団長!」
「大丈夫だ、ショーン。きみのことは、僕が必ず守る」
振り向いたアリスターは、
気に食わなそうに、ふん、と鼻を鳴らしたキース団長が私たちの横を通り抜けて闘技場の中央へ向かうと、アリスターもそのあとに続く。
「アリスター団長、必ず勝ってください!」
願いを込めて、アリスターの背中に声をかけると、少し振り向いたアリスターは、にこりと私に笑みを返した。
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