男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
5,騎士団対抗戦の始まり
晴れ渡る青い空の下で、私は眼前に
シャァァッという聞き慣れた音が
力が弱くても、
「くっ」
相手がひるんだ瞬間を
「勝者、マリーゴールド騎士団、ショーン・ローズ!」
国立闘技場に響き渡る審判の声を聞いて、私は剣を下ろした。
大きく私の人生を変える運命の日。
私は国立闘技場の土を踏んで、騎士団対抗戦に出ていた。
広い闘技場の中では、2つの試合が同時におこなわれている。
カラスウリ騎士団とスイセン騎士団の選抜メンバーが、離れた場所でキンッ、キンッと剣を
対、カンパニュラ騎士団戦。
緑色の制服を着た騎士が前に出てくると、私は肩の力を抜いて剣を構える。
これで、3人目。
「始め!」
「ハァッ!」
開始早々、気合を入れて切りかかってくる相手の剣を正面から“受け止め”れば、私は力で押し負けて、バランスを崩された。
体勢を立て直す前に追撃が来て、またガードをすると、相手の剣に押されて、無事尻もちをつく。
ここまで無防備な相手なら、寸止めの攻撃をしてくれるでしょ。
そんな私の期待通りに、相手の騎士は
「勝者、カンパニュラ騎士団――!」
審判が勝者の名前を告げて、相手の剣が離れていくと、私は立ち上がって、お尻についた土汚れを払う。
「今負けたの、わざと、だよな? どうして……」
「……少ない体力、温存しておかないといけないからな」
相手の疑問に答えると、私は白い剣をサヤに収めて、マリーゴールド騎士団の控室に向かった。
そのとちゅう、すれ違ったうちの大将、ノアと目を合わせて、私は口を開く。
「残りは頼みましたよ」
「……この程度で負ける俺じゃない」
心なしかムスッとした顔で返されて、思わず苦笑いした。
「そろそろ機嫌、直してくれません?」
「俺に断りもなく、ことを進めたのはショーンだろう」
自分のことくらい、自分で勝手に決めたってよくない……?
暗に振ることになったのは多少悪いと思っているんだし、何日も機嫌を悪くしたままでいなくても。
ノアを見送ってため息をつきながら、私は通路を通って控室に戻った。
「ご苦労! このまま3勝を目指そう」
「団長……はい」
真っ先にアリスターに出迎えられて、少々おどろきながらうなずく。
5人目の選抜メンバーである私は、4人の選抜メンバーが負けたあと、2人を倒して3人目で負けるというルールを作っている。
3つの騎士団に確実に勝つためには、そうやって体力を温存しておくほうがいいと、アリスターが言ったからだ。
まぁ、2人でやめるというのは私が(楽をするために)決めたことだけど。
「お疲れ、ショーン。ごめんな、1人しか倒せなくて」
「相手が強かった……そう言わざるをえないね」
「いや、1人でも倒してくれるのはありがたい。まぁ、自分も半分ノアに任せてるけど」
4人がかりで1人に勝つのがやっと、というのがもともとマリーゴールド騎士団の実力だ。
むしろ頑張っているほうだと言ってもいい。
トムやネイサンを含めた4人が勝てるかぎり勝って、残りを私とノアで片付ける。
このやり方で、すでにカラスウリ騎士団に1勝しているし、2つ目の騎士団を相手にしたあとも、私の体力は充分に残っている。
キース団長の
「次のシクラメン騎士団との試合に勝てれば、3勝という約束は果たせる……スイセン騎士団は最終戦になるが、必ず勝とう」
アリスターが私の肩に手を置いて、ささやくように宣言する。
私は「はい」と答えて、先日婚約者という肩書きに変わった相手の顔を見つめた。
騎士団対抗戦に出ている通り、私があの日頼ったのは、アリスターだ。
お母さまからの手紙を見せて婚約を申し込んで欲しいと言うと、アリスターはすぐに私の家へ手紙を出してくれた。
私もアリスターとの婚約を望んでいる、という手紙を送ったから、お母さまはすぐに対応してくれたようで。
返事の手紙が届いたのは
これで無事に、
アリスターの善意で、私もまだ自由を――
「ショーン、座って休むといい。まだ体力を残しておく必要があるからな」
「あ、はい。では遠慮なく」
にこりとアリスターに笑いかけられて、私は控室に用意されているイスに腰かけた。
まぁ、とにもかくにも、まずは目の前の問題を片付けなければ。
ノアがカンパニュラ騎士団の残り3人を倒すのは時間の問題だろうし、次の試合が来るまでゆっくり休んでおこう。
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