男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

5,騎士団対抗戦の始まり

約2,000字(読了まで約6分)


 晴れ渡る青い空の下で、私は眼前に(せま)る剣を体の左に受け流した。
 シャァァッという聞き慣れた音が途切(とぎ)れる前に、ひざを上げて、足裏を相手の太ももにぶつける。
 力が弱くても、容赦(ようしゃ)というものを捨てれば、そこそこの痛みは与えられるものだ。


「くっ」


 相手がひるんだ瞬間を見逃(みのが)さず、私は剣を振り抜いて、首の横で寸止めする。


「勝者、マリーゴールド騎士団、ショーン・ローズ!」


 国立闘技場に響き渡る審判の声を聞いて、私は剣を下ろした。

 大きく私の人生を変える運命の日。
 私は国立闘技場の土を踏んで、騎士団対抗戦に出ていた。

 広い闘技場の中では、2つの試合が同時におこなわれている。
 カラスウリ騎士団とスイセン騎士団の選抜メンバーが、離れた場所でキンッ、キンッと剣を(まじ)えている音を聞きながら、私は次の相手を待った。

 対、カンパニュラ騎士団戦。
 緑色の制服を着た騎士が前に出てくると、私は肩の力を抜いて剣を構える。
 これで、3人目。


「始め!」

「ハァッ!」


 開始早々、気合を入れて切りかかってくる相手の剣を正面から“受け止め”れば、私は力で押し負けて、バランスを崩された。
 体勢を立て直す前に追撃が来て、またガードをすると、相手の剣に押されて、無事尻もちをつく。

 ここまで無防備な相手なら、寸止めの攻撃をしてくれるでしょ。
 そんな私の期待通りに、相手の騎士は戸惑(とまど)った顔をしながら、私の胸に剣を突きつけた。


「勝者、カンパニュラ騎士団――!」


 審判が勝者の名前を告げて、相手の剣が離れていくと、私は立ち上がって、お尻についた土汚れを払う。


「今負けたの、わざと、だよな? どうして……」

「……少ない体力、温存しておかないといけないからな」


 相手の疑問に答えると、私は白い剣をサヤに収めて、マリーゴールド騎士団の控室に向かった。
 そのとちゅう、すれ違ったうちの大将、ノアと目を合わせて、私は口を開く。


「残りは頼みましたよ」

「……この程度で負ける俺じゃない」


 心なしかムスッとした顔で返されて、思わず苦笑いした。


「そろそろ機嫌、直してくれません?」

「俺に断りもなく、ことを進めたのはショーンだろう」


 自分のことくらい、自分で勝手に決めたってよくない……?
 暗に振ることになったのは多少悪いと思っているんだし、何日も機嫌を悪くしたままでいなくても。
 ノアを見送ってため息をつきながら、私は通路を通って控室に戻った。


「ご苦労! このまま3勝を目指そう」

「団長……はい」


 真っ先にアリスターに出迎えられて、少々おどろきながらうなずく。
 5人目の選抜メンバーである私は、4人の選抜メンバーが負けたあと、2人を倒して3人目で負けるというルールを作っている。
 3つの騎士団に確実に勝つためには、そうやって体力を温存しておくほうがいいと、アリスターが言ったからだ。
 まぁ、2人でやめるというのは私が(楽をするために)決めたことだけど。


「お疲れ、ショーン。ごめんな、1人しか倒せなくて」

「相手が強かった……そう言わざるをえないね」

「いや、1人でも倒してくれるのはありがたい。まぁ、自分も半分ノアに任せてるけど」


 4人がかりで1人に勝つのがやっと、というのがもともとマリーゴールド騎士団の実力だ。
 むしろ頑張っているほうだと言ってもいい。
 トムやネイサンを含めた4人が勝てるかぎり勝って、残りを私とノアで片付ける。
 このやり方で、すでにカラスウリ騎士団に1勝しているし、2つ目の騎士団を相手にしたあとも、私の体力は充分に残っている。

 キース団長の謹慎(きんしん)をかけたこの勝負は、私たちマリーゴールド騎士団の勝ちで終われそうだ。


「次のシクラメン騎士団との試合に勝てれば、3勝という約束は果たせる……スイセン騎士団は最終戦になるが、必ず勝とう」


 アリスターが私の肩に手を置いて、ささやくように宣言する。
 私は「はい」と答えて、先日婚約者という肩書きに変わった相手の顔を見つめた。

 騎士団対抗戦に出ている通り、私があの日頼ったのは、アリスターだ。
 お母さまからの手紙を見せて婚約を申し込んで欲しいと言うと、アリスターはすぐに私の家へ手紙を出してくれた。
 私もアリスターとの婚約を望んでいる、という手紙を送ったから、お母さまはすぐに対応してくれたようで。

 返事の手紙が届いたのは今朝(けさ)だったけれど、モバリー子爵令息からの婚約の申し込みは丁重(ていちょう)にお断りした、と結果まで記されていた。
 これで無事に、突如(とつじょ)降りかかったピンチは対処できたわけである。

 アリスターの善意で、私もまだ自由を――


「ショーン、座って休むといい。まだ体力を残しておく必要があるからな」

「あ、はい。では遠慮なく」


 にこりとアリスターに笑いかけられて、私は控室に用意されているイスに腰かけた。

 まぁ、とにもかくにも、まずは目の前の問題を片付けなければ。
 ノアがカンパニュラ騎士団の残り3人を倒すのは時間の問題だろうし、次の試合が来るまでゆっくり休んでおこう。


第4章 人生をかけた騎士団対抗戦

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