男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

2,アリスターのアプローチ

約2,300字(読了まで約6分)


 キース団長への警戒心を抱えて、しっかりとうなずいたものの、所詮(しょせん)、私は新米騎士でたかが男爵(だんしゃく)家の出身だ。
 強引な手段を使われたら、抵抗しようがない。


「気をつけます、が……私の力なんてちっぽけですから、アリスターが守ってくれませんか?」

「……」


 アリスターがぽかんと目を丸くする様子を見て、え、とたじろぐ。
 まさかそこで突き放すつもりだったの……!?
 今までこんなに優しくしておいて!?


「……もちろんだ。まさか、シャノンの口からそんなことを言ってもらえるとは思わなかった」


 キラキラと光を発しながら、アリスターは心底うれしそうに笑った。
 久しぶりに目が潰れそうになって、すぐさま視線をそらす。


「今までは、失礼だと思って口に出してなかっただけです……」

「それなら、実際に言ってくれるほど心を許してもらえたと思っていいのか?」

「う……その……」


 ポジティブにとらえるのがお上手なことで。

 どうごまかそうか考えて目を泳がせると、アリスターが立ち上がって私の隣に来た。
 沈むソファーの感覚に身を硬くすれば、手を重ねられる。


「頼ってくれてうれしい。僕はこれからも、シャノンの味方だ」

「あ……ありがとうございます……」

「ふふっ……可愛いな。この熱は、僕を意識してくれている証か?」


 指の背でほおをなでられて、顔の熱さが増した。

 意識? それは意識せざるをえないって。
 アリスターはとんでもない美丈夫なんだから……!


「あ、あの……あんまりこっち、見ないでもらえますか……っ」

「すまないが、それはできそうにない。シャノンの可愛い顔が目の前にあるのに、目を(そむ)けるなんて」

「か、可愛くないですっ! 私はアリスターやノアと違って……」


 異性を一目で魅了できるほど整った容姿はしていないのだから。


「シャノン、すまないが、今は僕のことだけを考えてくれないか。シャノンの口からノア先輩の名前が出ると、嫉妬(しっと)してしまう」

「そ……っ」


 そんなことを言われたって!
 こんな状況でアリスターのことだけを考えようものなら、一介の令嬢にすぎない私なんてコロッと落ちてしまうんだけど!?

 この人危ない! なんとかしてこの場から逃げないと!

 ソファーから腰を浮かせると、体の前を通過して、アリスターの腕が私の肩を抱いた。


「逃げないでくれ」

「あり、すた……」


 思わず視線を向けてしまったのが運の尽きだった。
 想像よりも近くにあった、アリスターの目を細めた妖しい顔を直視してしまって、体の芯が燃えるように熱くなる。
 きっと人様には見せられないだろう私の顔を見てなにを思ったのか、アリスターは柔らかく微笑(ほほえ)んだ。


「僕はきみを逃がしてあげられない、シャノン。女性に対してこんな気持ちになったのは初めてだが……僕のやることは、きっと変わらない」

「やる、こと……っ?」


 肩を抱く手が離れて、するりとほおをなでられる。
 正面からまっすぐに私を見つめる熱い瞳に、心臓が大暴れして目をつぶると、ふっと笑う声がしたあと、耳の横で口を開かれた。


「僕の情熱を、まっすぐにぶつける。出し惜しみなく、全力で」

「っ……!」


 アリスターの重い一振りを食らったように、ドクンと体に衝撃が走る。

 完全に、アリスターに飲まれてしまった。
 次になんと言えばいいのかも分からないし、指一本だって動かせない。

 私……とんでもない強敵に、好かれてしまったかも。
 こんなの敵前逃亡一択なのに……逃げるすきさえ、ない予感がする。


「自分の気持ちを自覚した日から……きみに同じ言葉を返してもらえる日が来て欲しいと、願ってやまない。シャノン……好きだ」

「わ、私は……っ」


 熱量のある言葉に頭が真っ白になって、私はなんとか、この場を切り抜ける一言を放った。
 それすなわち。


「しっ、仕事をしましょうっ!!」



****
Side:キース・ヤーノルド

 コンコン、と執務室の扉がノックされて顔を上げた私は、室内に入ってきたのがとある命令を下した部下だと知ると、目を細めた。


「どうした。すぐに戻ってこい、などと言った覚えはないが」

「それが……重大な秘密を握ったので、すぐにお伝えしようと」

「ほう……執務室に入って、気を抜いたか」


 モバリー領に遠征(えんせい)してから、ショーン・ローズの隣にはいつも、ノア・エクルストンか、アリスター・カルヴァートがいた。
 特筆すべきこともない、男爵家の人間が……公正なアリスター・カルヴァートの“お気に入り”となったことは明らかだ。
 ノア・エクルストンの弟子で、腕が立つというだけではない、なにかがあるはず。

 その答えが……。


「――ほう。ショーン・ローズが実はシャノンという名の女で、アリスター・カルヴァートが彼女に熱をあげている、と?」

「はい。扉越しの小さな声ですが、確かに聞きました」


 マリーゴールド騎士団にノア・エクルストンの弟子がいると聞いて、以前、ショーン・ローズについて調べさせた。
 その報告書を、机の引き出しから取り出す。
 目で文字をなぞると、親族の名前の中から、“シャノン・ローズ”という文字を見つけて「妹、か」と口の中でつぶやいた。

 いくら優秀でも、女をスイセン騎士団に抱え込むわけにはいかない。
 となると……。


「なにも、聞かなかったことにしろ。ショーン・ローズには利用価値がある。私の邪魔をすることは許さない。……いいな?」

「はっ、はいっ!」


 ざっと目を通したあとに報告書を仕舞って、ふ、と笑みをこぼした。

 アリスター・カルヴァートと、ノア・エクルストンをたらしこんだ女、か……。
 そちらの面でも、使えるかもしれないな。


第4章 人生をかけた騎士団対抗戦

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