男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

1,騎士団本部にて

約2,200字(読了まで約6分)


 アリスターに素を見せて、ノア同様に、告白されてからというもの。
 私の騎士団生活は楽になった。
 訓練は特別メニューを与えられるようになったし、そもそも事務仕事を任されることも増えたから。

 今日だって……。


「アリスター団長。ショーンを独占(どくせん)しすぎではないですか」

「僕よりも、ノアのほうがショーンと長い時間を過ごしていると思うが?」

「……」


 事務仕事を任されて騎士団本部へ向かう道中、つきまといに来ているノアと、一緒に事務仕事をする予定のアリスターが言い合う。
 どっちもどっちだと言いたいけれど、アリスターにはかなり待遇を改善してもらったし、文句のようなことは言えない。


「俺はショーンの師ですから。付き合いの長い理解者でもありますし、俺がそばにいることでショーンも気が楽になるでしょう」

「ショーンの理解者であるのは僕も同じだ。頼れる存在になりたいと思っている」

「俺はすでに、頼れる存在です」


 私を挟んで、アリスターにドヤ顔を見せるノアを、半目で見つめた。
 剣の腕は認めているけれど、それほど頼りになる存在でもなかったような……。


「む……僕も、きみに頼ってもらえるように頑張る」

「だ、団長……」


 そんな、キリッとした目で見つめられても困るんですけど……。
 というか、アリスターには楽をさせてもらうという点ですでに頼ってるんだけどなぁ。

 あーあ、どうして私が、こんな取り合われるような状態になってしまったんだろう……。
 しかも、王国の二大騎士になると言われていたような2人に……。


「これは、これは。アリスター・カルヴァートに、ノア・エクルストン、ショーン・ローズか。本部へはなにをしに来た?」

「……キース団長」


 本部に近づくと、横から、部下を連れたキース団長が現れた。
 とたんに、空気がピリッとしたのは仕方ないだろう。
 私だって、見て愉快(ゆかい)な顔じゃない。


「仕事です。……ノア、訓練のほうは頼む」

「……はい」


 アリスターと視線を(まじ)えたノアは、私に「気をつけろ」とささやいて、来た道を引き返していった。
 先ほどまで言い合っていたのがうそのように、あっさりとしている。


「失礼します、キース団長。……行くぞ、ショーン」

「はい」

「ショーン・ローズ。ナギービの森のゴーレムはきみが1人で相手をしていたそうだな。その後、怪我の具合はどうだ?」


 アリスターと入り口に向かって歩き出したというのに、うしろから声をかけられて渋々足を止めた。
 キース団長は私が無視できるような相手でもないし……。


「ただの体力切れで、怪我はしていないので大丈夫です。失礼いたします」

「怪我はしていない、か……ふっ」


 独り言の声量だったから、それは聞こえなかったフリをして背を向ける。
 私と同様に足を止めていたアリスターと目が合うと、それだけで少し肩の力が抜けた。
「行こう」と小さく声をかけてきたアリスターにうなずいて、私は騎士団本部へと入る。

 閉めた扉が、恐らくキース団長たちによって、また開かれる音を聞きながら、私たちは隅のほうにある執務室へ向かった。
 ガチャリと、執務室の扉を閉めてやっと、緊張がとける。


「本部には各騎士団の団長が出入りするから……すまないな」

「いえ……偶然出会ってしまうのは仕方ないことですから」

「……キース団長に引き抜かれるすきを見せないように、僕も気をつけないといけないな」


 私に困ったような笑みを見せてから、アリスターは独り言のようにつぶやいた。
 机に向かう背中を見ながら、私もゆっくり歩く。


「私は体力も筋力もない役立たずだとアピールするのはどうですか?」

「きみは役立たずじゃない。だから、ある意味で困っているんだが」

「それなら、ノアを代わりに売るとか」

「はははっ……ノア先輩はきっと、シャノンと離れるつもりはないと思うぞ?」

「……それが、困ったところですね」


 机の上に置かれた書類の小山を持って、応接用のソファーへ移動すると、アリスターも書類を持って向かいのソファーに座った。
 こっちは応接用のスペースで、決して書類仕事をする前提のつくりじゃない。


「せっかく専用の机があるんですから、向こうで仕事してもらっていいんですよ?」

「シャノンがこちらにいるのだから、僕も同じ条件で仕事をする。それに、ここのほうがシャノンの顔がよく見えるんだ」


 顔を上げてにこりと笑いかけられ、かぁっとほおが熱くなった。
 すぐに視線を落として、気をそらすために書類の文字を追う。

 アリスターに好意をむき出しにされると、動揺してしまうから困る……。


「不安にさせたくはないのだが……キース団長、ひいては、ヤーノルド公爵家の方々は、優秀な人材を“所有”することに執着している」

「所有……ですか。イヤな言い方ですね」

「あぁ。だが、あのお方たちの振る舞いを見ると、その言葉が一番合ってしまうんだ。シャノンも、充分に気をつけてくれ」


 書類から視線を上げると、アリスターは真面目な顔で私を見つめていた。


「俺はきみの生き方を尊重したい。そして、身の安全も。キース団長の部下になれば、“実力に見合った”仕事を任せられることだろう」


 それはつまり、こき使いまくられるということ?
 元々好印象なんてなかったけれど……それなら絶対に、キース団長のもとへ行くわけにはいかない。


「分かりました」



第4章 人生をかけた騎士団対抗戦

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