男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

4,一筋縄ではいかない試験

約2,300字(読了まで約6分)


 次の試験は、試験官の攻撃を防御せよ、という内容だった。
 これも先人たちの動きを観察して、もちろん合格ギリギリのラインを狙う。


「ショーン・ローズ、前へ!」

「はい」


 この試験は、備品を傷つける可能性がある最初の試験と違って、持ち込みの剣を使う人が多かった。
 でも私はなにも持ってきていないから、前回に引き続き練習用の剣を借りる。
 試験官の前に立って剣を構えると、視線が(まじ)わって一呼吸したのち、左上から剣が振り下ろされた。

 ノアから教わった防御は、“受け流し”一本。
 柄を握る手を前に出し、刃先は少し自分側へ傾ける。
 力負けしないよう剣の腹に片手を添えて、体の横へ攻撃を流したら、蹴りで反撃するか、手首を返して反撃……。
 という動きが体にしみついているのだけど、今回は防御の試験だから、ぐっと我慢。

 攻撃を見てから防御の体勢をとるまでの時間を遅らせたり、自分と、攻撃を受け流した先の角度をばらつかせて、不安定さをアピールした。
 右からの切り下ろしに、左下からの切り上げ、右左の順での切り下ろし。
 6回目、最後の攻撃となる突きは、いつも避けるのが常なのだけど、一歩横にずれてうしろへ流し、対処した。


「次!」


 試験が終わって、剣を返しながら奥の試験官を見ると、期待通りの動きでエントリーシートになにかを書き込んでいた。
 このままだと楽勝かも。

 緩むほおを引き()めて、私は次の試験を受けにいった。
 3つ目の試験の内容は……。


「え」


 先に試験を受けている男性が、地面に積み上げられている()のうを3つ、「ふんっ」と持ち上げる。
 それを見て、奥の試験官がさらさらとなにかを書き込んだ。
 男性は、腕に抱えた土のうを地面に下ろして「ありがとうございました」と次の試験を受けにいく。
 続く男性も、同じことをしていた。

 まさか……腕力を試そうっていうの……!?
 まずいまずいまずい。
 それだけは無理! 身体能力だけは本当に!
 ノアだって「シャノンは俺にも匹敵(ひってき)する剣の才能があるが、体が貧弱(ひんじゃく)だ」と再三言っていたし!
 私の番こないで、私の番こないで、私の番こないで……っ!


「次、ショーン・ローズ!」


 世の中はなんて無情なんだろう……。
 私は冷や汗をだらだらと流しながら、ふるえる足で前に出た。
 試験の様子を見ていた感じ、最低2つは持ち上げないと減点される。


「う……」


 本当にイヤだけど、私の将来のためには絶対騎士団に入らなきゃいけない……。
 となれば、明日筋肉痛になることを覚悟して、全身全霊で持ち上げるしかない……土のうを2つ!
 カッと目に力を入れて腰を落とすと、私は上から2段目の土のうに手を差し込んだ。

 力は受け流すもの、大丈夫、剣を持ったときの体の動きを応用すれば……!
 せーのっ……!


「ふ、んんんん……っ!」


 全身を使って土のうを持ち上げると、成人女性を抱き上げたくらいの重さがどっしりと腕にかかる。


「ぐ、ぎぎ……!」


 それでも全力で土のうを胸の高さまで持ち上げてやった。
 そのまま10を数えると、どさっと土のうを落として、荒い呼吸をくり返す。
 腕がしびれてるし、足がぷるぷるふるえてる……もう二度とこんなことしない……っ!


「ありがとう、ございました……」


 合格を意味するなにかしらを書き込んでいる試験官を横目に、私は疲労でいっぱいの体を引きずって次の場所に向かった。


「ここでは、私と、向こうに立っている騎士の間を、ダッシュで5往復してもらう」

「はっ……?」


 4つ目の試験は走り込み。
 平民の家2つ分ほどの距離を、5往復もしろと言うらしい。
 試験の様子を観察する元気もなかったけれど、とにかくこれだけは分かる。
 限界を超えるくらいのつもりで全力を出さないと、私はこの試験に落ちる!


「次、ショーン・ローズ!」

「はい……」


 まさか入団試験でこんな壁にぶつかるなんて、と奥歯をかみながら、スタート地点に立った。
 もしかしたら、1つの試験で減点されただけで、騎士団には入れないかもしれない。
 確実に騎士団に入るためには、どの試験でも合格点を出すしかない……!


「始め!」


 私はつま先に力を入れて、向こうに立っている騎士のもとまで、走って向かった。


****


「死ぬかと思った……」


 魂が抜けてもおかしくないほど、げっそりと疲れ切った体を引きずって闘技場を出る。
 死ぬ気で残りの試験を受けた私は、無事に“合格”の一言を受け取った。
 配属先の騎士団はこれから決められるらしく、7日後に王城へ来るように、とだけ言われた。


「お、きみは! 試験の結果はどうだった?」

「はい……?」


 疲れのあまり、ぽけーっとしたまま声が聞こえた方を見ると、まぶしさで目が潰れそうになって「うっ」と声が出る。
 弱った体を容赦(ようしゃ)なく攻撃する、この暴力的なまでにキラキラした騎士は……!


「うん? 大丈夫か?」

「近づかっ……いえ、大丈夫です……」


 きょとんとした表情で顔をのぞきこまれて、横を向いた。
 最初に、ここであったスイセン騎士団の人だ……。


「そうか? それで、結果は?」


 弾んだ声で聞かれて、私は「合格でした」と小さく答える。


「おぉっ、やったなぁ! きみがどこの騎士団に入るかは分からないが、これから同じ騎士としてよろしく頼む!」

「う……はい……」


 ぽん、と両肩に手を置かれ、しかめっ面にならないよう気をつけた。
 苦手だ、この人。


「疲れ……いや、用事があるので、失礼します……」

「あぁ、気をつけて。また会えたらうれしい」


 最後に少し顔を見ると、金髪のキラキラ騎士はにこりと笑みを浮かべていた。
 笑うとキラキラオーラが増して一歩下がりたくなる。

 はぁ、さっさと宿屋に帰って寝よう。


「では」


 私はキラキラ騎士に頭を下げて、国立闘技場から離れた。


第1章 マリーゴールド騎士団

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