男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
4,一筋縄ではいかない試験
次の試験は、試験官の攻撃を防御せよ、という内容だった。
これも先人たちの動きを観察して、もちろん合格ギリギリのラインを狙う。
「ショーン・ローズ、前へ!」
「はい」
この試験は、備品を傷つける可能性がある最初の試験と違って、持ち込みの剣を使う人が多かった。
でも私はなにも持ってきていないから、前回に引き続き練習用の剣を借りる。
試験官の前に立って剣を構えると、視線が
ノアから教わった防御は、“受け流し”一本。
柄を握る手を前に出し、刃先は少し自分側へ傾ける。
力負けしないよう剣の腹に片手を添えて、体の横へ攻撃を流したら、蹴りで反撃するか、手首を返して反撃……。
という動きが体にしみついているのだけど、今回は防御の試験だから、ぐっと我慢。
攻撃を見てから防御の体勢をとるまでの時間を遅らせたり、自分と、攻撃を受け流した先の角度をばらつかせて、不安定さをアピールした。
右からの切り下ろしに、左下からの切り上げ、右左の順での切り下ろし。
6回目、最後の攻撃となる突きは、いつも避けるのが常なのだけど、一歩横にずれてうしろへ流し、対処した。
「次!」
試験が終わって、剣を返しながら奥の試験官を見ると、期待通りの動きでエントリーシートになにかを書き込んでいた。
このままだと楽勝かも。
緩むほおを引き
3つ目の試験の内容は……。
「え」
先に試験を受けている男性が、地面に積み上げられている
それを見て、奥の試験官がさらさらとなにかを書き込んだ。
男性は、腕に抱えた土のうを地面に下ろして「ありがとうございました」と次の試験を受けにいく。
続く男性も、同じことをしていた。
まさか……腕力を試そうっていうの……!?
まずいまずいまずい。
それだけは無理! 身体能力だけは本当に!
ノアだって「シャノンは俺にも
私の番こないで、私の番こないで、私の番こないで……っ!
「次、ショーン・ローズ!」
世の中はなんて無情なんだろう……。
私は冷や汗をだらだらと流しながら、ふるえる足で前に出た。
試験の様子を見ていた感じ、最低2つは持ち上げないと減点される。
「う……」
本当にイヤだけど、私の将来のためには絶対騎士団に入らなきゃいけない……。
となれば、明日筋肉痛になることを覚悟して、全身全霊で持ち上げるしかない……土のうを2つ!
カッと目に力を入れて腰を落とすと、私は上から2段目の土のうに手を差し込んだ。
力は受け流すもの、大丈夫、剣を持ったときの体の動きを応用すれば……!
せーのっ……!
「ふ、んんんん……っ!」
全身を使って土のうを持ち上げると、成人女性を抱き上げたくらいの重さがどっしりと腕にかかる。
「ぐ、ぎぎ……!」
それでも全力で土のうを胸の高さまで持ち上げてやった。
そのまま10を数えると、どさっと土のうを落として、荒い呼吸をくり返す。
腕がしびれてるし、足がぷるぷるふるえてる……もう二度とこんなことしない……っ!
「ありがとう、ございました……」
合格を意味するなにかしらを書き込んでいる試験官を横目に、私は疲労でいっぱいの体を引きずって次の場所に向かった。
「ここでは、私と、向こうに立っている騎士の間を、ダッシュで5往復してもらう」
「はっ……?」
4つ目の試験は走り込み。
平民の家2つ分ほどの距離を、5往復もしろと言うらしい。
試験の様子を観察する元気もなかったけれど、とにかくこれだけは分かる。
限界を超えるくらいのつもりで全力を出さないと、私はこの試験に落ちる!
「次、ショーン・ローズ!」
「はい……」
まさか入団試験でこんな壁にぶつかるなんて、と奥歯をかみながら、スタート地点に立った。
もしかしたら、1つの試験で減点されただけで、騎士団には入れないかもしれない。
確実に騎士団に入るためには、どの試験でも合格点を出すしかない……!
「始め!」
私はつま先に力を入れて、向こうに立っている騎士のもとまで、走って向かった。
****
「死ぬかと思った……」
魂が抜けてもおかしくないほど、げっそりと疲れ切った体を引きずって闘技場を出る。
死ぬ気で残りの試験を受けた私は、無事に“合格”の一言を受け取った。
配属先の騎士団はこれから決められるらしく、7日後に王城へ来るように、とだけ言われた。
「お、きみは! 試験の結果はどうだった?」
「はい……?」
疲れのあまり、ぽけーっとしたまま声が聞こえた方を見ると、まぶしさで目が潰れそうになって「うっ」と声が出る。
弱った体を
「うん? 大丈夫か?」
「近づかっ……いえ、大丈夫です……」
きょとんとした表情で顔をのぞきこまれて、横を向いた。
最初に、ここであったスイセン騎士団の人だ……。
「そうか? それで、結果は?」
弾んだ声で聞かれて、私は「合格でした」と小さく答える。
「おぉっ、やったなぁ! きみがどこの騎士団に入るかは分からないが、これから同じ騎士としてよろしく頼む!」
「う……はい……」
ぽん、と両肩に手を置かれ、しかめっ面にならないよう気をつけた。
苦手だ、この人。
「疲れ……いや、用事があるので、失礼します……」
「あぁ、気をつけて。また会えたらうれしい」
最後に少し顔を見ると、金髪のキラキラ騎士はにこりと笑みを浮かべていた。
笑うとキラキラオーラが増して一歩下がりたくなる。
はぁ、さっさと宿屋に帰って寝よう。
「では」
私はキラキラ騎士に頭を下げて、国立闘技場から離れた。
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