男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

3,入団試験は手を抜いて

約2,000字(読了まで約5分)

 
 王都に到着すると、私はまず宿をとった。
 入団試験をおこなうのは、3ヶ月ごとに開かれる騎士団対抗戦や、年に一度開かれる武闘大会の舞台となる国立闘技場。
 これまでに何度か訪れたことがあるから、道に迷う心配はない。

 旅の荷物と、師匠からもらった剣を置いて宿屋を出ると、私は活気がある王都の道をのんびり歩いて闘技場に向かった。


「人が多いな……」


 目的地へと近づくにつれて、若い男性の姿が多くなっていく。
 向かう先が同じなところを見ると、みんな入団試験を受けにきた人なんだろう。
 意外にも、腰に剣を下げている人が多い。
 私がもらったのは上等な剣だと贈り主から聞いていたし、実力を出してこき使われるのはイヤだから置いてきたけど……。
 逆に目立つかなぁ。


「ようこそ! きみも騎士団への入団希望者か?」

「わっ、び……」


 っくりした。
 考えながら歩いてたら、もう闘技場についていたらしい。
 巨大な建物を背にして私の前に立っていたのは、太陽の光を集めたような金髪の、キラキラした男性だった。
 令嬢にさわがれそうなほど整った顔に、にっこりと笑みを浮かべて、それこそ太陽のようなまぶしさを放っている。


「は、はい……」

「このまま中へ入って、受付をしている騎士に名前と年齢を告げてくれ。そのあとは、受付の騎士から指示がある」


 闘技場の入り口を指し示したキラキラ騎士は、水色の制服を着ていた。
 水色と言えば、高位貴族が集まるというあの騎士団の……。


「健闘を祈る! 肩の力を抜いて、きみの全力を出してくるんだ」


 胸に拳を当てて、騎士の礼をとったキラキラ騎士は、柔らかく笑って、私の肩にぽんと手を乗せた。

 気さくな人だなぁ……受付への案内なんて、スイセン騎士団の人がするような仕事じゃないだろうに。
 キラキラしすぎてて、相手をするだけで疲れそうだから、私はこの人苦手だけど。
 ぺこりと頭を下げて闘技場の中に入ると、広大なその場所には人があふれ返っていた。

 入団試験を受けられるようになる16歳の男性から、20代と思われる男性まで、年齢は意外と幅が広い。
 私は“受付”と張り紙がされた長机を見つけて、紙の山を前にしている騎士へと近づき、「ショーン・ローズ、16歳です」と告げた。

 受付の騎士は紙の山から一枚、エントリーシートと書かれた紙を取って、私の名前と年齢を書き込む。


「剣を地面に突き立てている、赤い制服の騎士が立つ場所へ向かうように。名前を呼ばれたら返事をして前に出なさい」

「はい」


 エントリーシートは近くにいる別の騎士に渡されて、ある程度枚数がたまったら実際に試験をおこなう場所へ運ぶ流れらしい。
 ちょうどエントリーシートの小山を持って歩き出した騎士へついていくように、私は受付の男性に言われた場所へ移動した。
 どちらの騎士も、着ているのは茶色の制服……となると、カラスウリ騎士団の所属かな。

 この国には5つの騎士団がある。
 それはシクラメン騎士団、スイセン騎士団、カンパニュラ騎士団、カラスウリ騎士団、アケビ騎士団、と名前がついていて……。
 私のお父さまが所属していたのは、赤い制服のシクラメン騎士団だった。……はず。

 目印となるように、サヤに入った剣の先を地面に突き立てている、赤い制服の騎士を横目に、私は試験を観察した。


「右からの切り下ろし、左からの切り下ろし、突き、の3つの攻撃を2周、ワラに向かって打ち込め!」


 地面に突き刺さった棒の上部に、人間の上半身を()したワラがくくりつけられている。
 その前に立っている若い男性は、刃を潰した練習用の剣を持って、そこそこ(するど)い3連撃を2回くり出した。
 それを見て、奥の試験官がエントリーシートになにやら書き込む。

 続いて、お兄さま同様、頼りなさそうな男性が、剣の重さに振り回されたような大振りの連撃をワラに向かって打ち込んだ。
 奥の試験官が持つペンの動きは、先ほどとは違う。
 あれくらい下手にやると減点されるらしい。

 私はそれからも、先に試験を受ける男性たちの様子と、試験官のペンの動きをつぶさに観察した。


「次、ショーン・ローズ!」

「はい」


 去年、1年間私を指導した剣の師匠・ノアいわく、私には剣の才能があるらしい。
 確かに、試験の様子を見る限り、軽く手を抜く程度ではよゆうで合格圏内に入ってしまいそうだった。
 これは大げさなくらいに下手なフリをして、“ギリギリ合格ではあるけど使えない人材”アピールをしなければ。
 こいつに仕事は任せられないと思わせたら私の勝ち!

 私は騎士団から貸し出されている練習用の剣を持って、右、左、突き、右、左、突き、と連撃をくり出した。
 攻撃部位は外さず、でも少し剣の重さで動きがにぶくなっているかのように。
 ついでに、前に踏み出した足を指1本分くらいずらして、バランスを崩しているという演出をしておく。

 試験官が少し迷ったあと、期待通りの動かし方でペンを走らせたのを見て、よし、と心の中で喜んだ。
 この調子で、ギリギリ合格を狙おう!


第1章 マリーゴールド騎士団

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