男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

13,2人の好意に挟まれて

約2,000字(読了まで約6分)


 1日目で魔物を掃討(そうとう)し、2日目で生き残りがいないことを確認した私たちマリーゴールド騎士団は、馬を走らせて王都へ帰ることになった。
 その道中、夜を迎えて、近くの町でいくつかの宿をとった私たちは、それぞれの宿で休むことになったのだけれど……。


「ショーンも少し飲むか?」

「ノア、ショーンにエールはまだ早い。それよりも、このソテーをあげよう。美味しいぞ」

「はあ……どうも……」


 なんで私は、ノアとアリスターに挟まれて夕食をとっているんだろう。
 右には、プロポーズをしてきた男性が。
 左には、体を温めるためとはいえ、一晩抱き()められて過ごした男性が。
 どっちを向いても気まずいことこの上ない……。


「これ、好きだったろう」


 ひょいと、私のお皿に料理を移してくるノアはいつも通り。


「僕のも食べるか?」


 にこにこと、さらに盛り付けを増やすアリスターが、新しく加わった悩みの種だ。


「……あの、そんなに与えられても食べ切れません」

「アリスター団長、ショーンがこう言っているので料理を与えないでください」

「1人であげてばかりだと、ノアの食べる分がなくなるだろう?」


 なぜそこで言い合いが発生するのか。
 分からない、そもそもどうして私にかまうわけ?
 2人とも勝手に食べればいいのに……。

 ため息をこらえながら料理を口に運ぶと、ノアとアリスターが私を挟んで見つめ合った。


「……ショーンにかまいすぎではありませんか、アリスター団長。1人の部下をひいきすれば、周りが不満を抱くのでは?」

「ここには僕たちしかいない。それなら、好きなように振る舞ってもいいだろう?」


 そう、各宿の空室状況が入り交じった結果、3部屋しかとれなかったこの宿に、私たち3人が泊まることになってしまったのだ。
 気まずい顔ぶれになったのは運の尽きとしか言いようがない。
 まぁ、肩ひじ張らなくていい2人だと思えば、逆に幸運なのかもしれないけれど。


「ずいぶんと態度が変わったのですね。山で過ごした夜、なにがあったのですか?」

「いや、なにも……」

「ショーンのことをより深く知るいい機会になった。そして、自分のことも」


 思わずアリスターを見ると、目を伏せていた。

 まぁ、抱き締めていたことはさすがに言わないよね……?
 体に走った緊張が抜けて、食事を再開しようとすると、まぶたを持ち上げたアリスターと目が合って、微笑(ほほえ)みかけられる。
 思わずドキッとした私を正気に戻したのは、けん制するようなノアの声だった。


「ショーンを理解しているのも、甘やかせるのも俺です」

「……ノア先輩、あなたは」

愛弟子(まなでし)、以上に想っています」


 右から回された腕が私の肩を抱く。

 もしかして今、アリスターに私が好きだって言ってる……!?
 どうして!? それ言う必要あった!?


「……ショーンの気持ちは?」


 アリスターに澄んだ瞳でじっと見つめられて、私は視線をそらした。


「いえ、あの、考えたこともなくて……まだ戸惑(とまど)ってるというか……」

「……そうか。それなら、ノア先輩と僕は対等な関係ということだな」


 ノアとアリスターが対等な関係?
 どんな点で? 剣の腕?


「……俺が見つけた女性です」

「出会いは誰にでも等しいだろう? その後、どれだけ心を通わせられるかが大事なポイントではないか?」

「それなら、負ける気がしませんね」

「僕だって、負ける気はない。付き合いの長さがすべてではないと証明しよう」


 私の左手を握ったアリスターの視線が、ノアから私に移ってきて、燃える火のような熱気が伝わってきた。

 ……イヤな予感がする。
 アリスターが次に口にする言葉を聞いたら、世界が一変してしまうような、イヤな予感が。


「シャノンのことが好きな男は、ノア先輩1人じゃない」

「え……」


 アリスターの視線は動かない。
 私も固まったまま、ピクリとも動けなかった。

 もしかして私、遠回しに好きだと言われた?
 ノアだけじゃなく、アリスターにまで?
 え、本気?
 いやいや、きっと違う意図があるはず。


「え、えっと……なにを言っているのか、よく……」


 ぐいっと、右に抱き寄せられて、ノアが耳の横で声を発した。


「シャノンが好きだと言っている」


 ガチリと体が固まると、今度は腰に手を回されて、左に抱き寄せられる。


「僕もきみが好きだ、シャノン」


 ささやかれた耳から全身へ熱が伝わるように、カッと体が熱くなった。

 ノアとアリスターが、私に好きと言っている??
 うそでしょ? 私を好きになる変わり者がこの世に2人もいるの?

 私はただ怠惰(たいだ)に生きたいと、日々を過ごしてきただけなのに……。


「い、一旦、食事をさせてください……っ」


 2人の男性に(せま)られるなんて、こんなの困るんだけど!

 右側の美しい微笑みも、左側のキラキラした笑顔も視界に映さない努力をしながら、私は夕食に集中して、現実逃避をすることにしたのだった。

 こんな事態は想定外だよ!


第3章 男装騎士の波乱

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