男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
11,シャノンの本性
どうくつに着いた私たちは、まず体から
もちろん水分がいくらか飛んだだけで乾いてなどいないけれど、裸のままいるわけにもいかないので、また制服を着ておく。
「さらに雨が強くなってきたな……この調子ではしばらく降り続けるだろうし、暗闇の中で
「帰れるのは明日、ですかね」
どうくつに入ってくる雨に当たらないよう、奥のほうで座りながらアリスター団長と話す。
ぬれて、冷えた制服に体温を奪われるので、ひざを抱えて、残った体温が全身に伝わるように工夫した。
「……申し訳ない。きみを巻き込んだあげく、こんなところで野宿させることになるとは」
「いえ、アリスター団長をお1人にするよりよかったです」
うちの近所の山でアリスター団長を
アリスター団長を助けようとした結果、私も一緒に落ちた、ということならまだなんとかなる範囲だ、きっと。
向かいの石壁に背中を預けて座っているアリスター団長は、眉を下げて私を見つめた。
「シャノン嬢は、もっと……自分の身を大切にしようとは思わないのか?」
「思っていますよ。なので、今回のことはささいな事故として、誰も罰されることがないように収めてくださると助かります」
「……最初から、誰も罰そうなんて考えていない」
困ったように笑うアリスター団長に、「ですが」と言葉を返す。
「アリスター団長は私の上司で、高貴なお方なので。色々と問題が発生しやすいかと……」
「僕の不注意で起こった事故だ。それ以外のなにも、存在しない」
「……」
まぁ、ここまでハッキリ言ってくれるなら、私の身にはなにも起こらないかな。
あとはアリスター団長を無事にふもとまで送り届ける任務があるくらいだけれど、魔物とかは自分で気づいて倒せるだろうし。
私が注意する必要があるのって、下山中の怪我くらいじゃない?
アリスター団長の前で男性のフリをする必要もないし……朝まですることもないし。
これはもしかしなくても、だらけチャンス
「シャノン嬢が僕に距離を置くのは、僕が
「……え?」
アリスター団長にバレない程度にだらけるには、と考えていたから、質問の内容を理解するのに、少し時間がかかった。
「えぇ、と……」
「長い付き合いがあるノア先輩のように、と望むのはわがままかもしれないが……僕にも、気さくに接して欲しい」
なんだかさみしそうなその目で見つめられると、悪いことをしている気分になるからやめて欲しい。
「で、ですが、アリスター団長は“団長”ですし……」
「“ショーン”にとっては、僕は確かに上司にあたる。しかし、シャノン嬢にとって、僕が上司であるつもりはない」
「でも、その、失礼かなと……」
「僕が望んでいることだ。失礼だととがめることはない」
えぇぇ……気さくに接しろと?
アリスター団長に? 素で接していいと、本当に言ってるの?
私は悩んでから、おずおずとアリスター団長を見つめた。
「あの……本当に、私がどんな態度をとっても怒りませんか?」
「もちろん。無礼な態度をとったってかまわない」
「……では、あの、私今、我慢していることがひとつありまして。我慢するのをやめても、いいですか?」
「あぁ、好きなようにしてくれ」
にこりと笑うアリスター団長を見て、私は、ふー、と息を吐きながら横に倒れる。
すると、団長どのは目を丸くして、「しゃ、シャノン嬢!?」と慌て出した。
「今日は、本当に疲れました……1日中、山を歩き回るなんて……」
「疲れ……た?」
「はい……先ほどから考えていたんです、どうやってアリスター団長の目を盗んで、だらけようかと」
「だらける……」
ぱちりぱちりと大きくまばたきをするアリスター団長を見ながら、もう一度ため息をつく。
「人の目があるのでちゃんとやってますけど、私本当は、訓練も任務もサボりまくりたいんです。
「そ、そうなのか」
「お兄さまが逃げ出しさえしなければ、私は今も家で、だらだら、ごろごろしていられたのに……」
アリスター団長は起きたまま夢でも見たような顔をして、じぃっと私を見つめていた。
やはり失礼だと怒られるかな。
でも、好きにしていいと言ったのはアリスター団長だし……。
そんなこと言うほうが悪いよね。
「シャノン嬢。きみは、もしかして……」
「生まれついてのなまけ者、と家族には言われています。身分に甘えて日々
横になってひざを抱えたまま、無表情で自己紹介をすると、アリスター団長は3拍ほど無言で私を見つめてから。
「ふっ……はははっ! そ、そうだったのか、シャノン嬢は、怠惰に生きるために……! はははっ」
顔をくしゃくしゃにして、大笑いした。
そこまで楽しげに笑われるのは、予想外だったのだけれど。
怒らないという約束は、本当に守ってくれるみたい。
「……そんなに面白いですか」
「あぁ、今までとのギャップで……ははっ! そうか、シャノン嬢はそんなことを考えていたんだなっ」
「えぇ、まぁ」
「はははっ、そうか、そうだったのか……! ははっ、シャノン嬢は面白いな!」
本性を知られたにも関わらず、にっこにこで
アリスター団長……変わった人だなぁ。
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