男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

9,楽をしたいシャノンと、

約2,500字(読了まで約7分)


 誰かとぎゅうぎゅう詰めになって戦うより、1人で自由に動けたほうがいい。
 そう思ってオークを引き受けたけれど、あまりにも早く倒してしまうと、コボルトのほうにも駆り出されてしまうだろうから……。
 多少は、時間稼ぎをしないとなぁ。


「頼んだ、ショーン!」


 リーダーの言葉にうなずいて、ひとまず“戦ってますよ”アピールをするために、オークの腕を軽く切りつけた。
 すると、左のオークがこん棒を横に振ってきたので、しゃがんで()け、緑色の足を剣先でかすめる。


「「グアア!」」

「ショーンっ、大丈夫か!?」

「心配するなっ!」


 オークの声を聞いて、トムが声をかけてきたので、暴れたオークたちが振り回すこん棒を剣の腹で受け流しつつ、移動するすきを探した。
 2体がばらばらにこん棒を振り上げたのを見て、私は2体の間をすり抜けるように背後へ回る。

 この位置なら、オークの体が邪魔して、私が多少サボっててもみんなにはバレない!


「さ、自分の代わりに動いてくれ」


 私はにんまりと笑って、剣を下ろした。


****

 みんながコボルトを倒し終わるタイミングを計算してオークを倒したあとも、私たちは山の中を歩き回って、出会う魔物を倒していった。
 とちゅう、昼休憩(きゅうけい)をとって携帯食を食べながら、曇り空を見上げて雨が降りそうだな、と予想した私の考えが当たったのは、日が暮れる頃。


「いつの間にか、すっかり暗くなってしまったね」

「時間的に、そろそろ日が暮れてもおかしくないだろうからな。空も曇ってるし」


 ネイサンのつぶやきに答えると、ぽつり、と手の甲に冷たいものが当たった感覚がする。
 一拍あとくらいに、またぽつりと、今度は頭になにかが当たった感覚がして、濃い灰色をした雲を見上げた。


「雨が降ってきたな……合流地点に急ぐぞ!」

「「はい!」」


 小雨(こさめ)が降り出すなか、リーダーの指示を聞いて、私たちは山頂付近から、山の中腹(ちゅうふく)へと下っていく。

 1日中歩き回って、魔物はほとんど倒せたんじゃないかと思う。
 3つの班が分担して山中をくまなく回ったわけだし、大量発生した魔物は掃討(そうとう)できたと言ってもいいんじゃないだろうか。


「ショーン、雨、平気か……?」


 働いた分の疲れを感じていると、トムがひそひそと声をかけてきた。
 ネイサンとニック先輩が寄ってきたのも、同じことを気にして、なのかな。


「ぬれたくらいで不都合はない。気を遣ってくれるのはありがたいけど、それで他の団員にバレるほうが困る。自分のことは気にしなくていい」

「……でも」

「ショーンくんはレディなのだろう?」

「……自分は見ての通り、守ってもらう必要がある、か弱い人間じゃない。どうせ女性にも見えないだろうし、ふつうに接してくれ」

「「いや」」


 声をそろえて否定した3人は、困ったように目を合わせる。
 そこらの男性よりも腕が立つ私に、女性らしさなんてないだろうと思って言ったんだけど……なにか違った?

 不思議に思って3人の顔を見ると、ため息をついて、代表するようにトムが口を開いた。


「確かに俺たちは、ショーンよりもずっと弱いけど……ゴーレムも、オークも、ショーン1人に押しつけないくらい、強くなるから」

「レディ1人に辛い思いはさせないよ」

「……戦闘で、守れない分……日常で、守る」

「……」


 まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。
 私なら、“できる人”に任せて思う存分楽をするし。
 わざわざ苦労するために頑張るなんて……物好きとしか言えない。

 私のなまけ癖を知っている周りの人は、いつもせっついてばかりだから、3人の言葉が新鮮で笑ってしまった。


「それなら、存分に私を助けてください」


 3人が強くなってくれるなら、必然的に私の労力も減る。
 だらけられる環境ができるのは大歓迎だ。

 うれしくてにこにこしていると、3人は、ほんのり顔を赤くして、(せわ)しなく「もちろん!」と意気込んでくれた。
 そうして、ひそひそと内緒話をしているうちに、私たちは合流地点へ到着して、1班や2班と朝ぶりに顔を合わせる。


「1班も3班も、みんな無事だな。暗くなってきたし、雨も降ってきた。報告は宿で聞こう。全員そろっているか?」


 集まった団員の中心で、アリスター団長が辺りを見回しているのをながめながら、私は「ふぅ」と肩をもんだ。

 ほぼ1日中動き回ってたから、疲れたぁ……。

 両手を組んで、ぐーっと上に腕を伸ばすと、雨が木々の葉に当たる音に混じって、グシャッと足音が聞こえた気がする。
 ちらりとうしろを向いた私は、木々の奥に緑色の体を見た気がして「あ」と声を漏らした。


「ショーン? どうし……ま、魔物!?」


 トムの大声で、マリーゴールド騎士団一同の視線は、私のうしろに姿を現した巨体へと向いたことだろう。
 緑色の肌、頭から生えた2本の角、人間を一回り大きくしたような筋肉質な体。
 この山では一番強い魔物にあたる、オーガだ。


「「ショーン!」」


 オーガが、腕を振り上げて握り込んだ拳を、先頭にいる私に向けてくるのを見て、サヤに収めた剣を引き抜く。
 あの拳を受け流したところで、この近さ、隣にいるトムたちを守ることはできない。
 なら、拳が当たるよりも速く、オーガを倒してその体を霧にする!

 私はつま先に力を込めてオーガへと(せま)り、水平に構えた剣をオーガの腹部に突き刺した。
 それと同時に、ブォンという風切り音が2つ聞こえる。
 剣先が硬いものに当たったのを感じて、血を被ることを覚悟し、剣を縦に回転させながら引き抜くと、私は左手を傷口に突っ込んだ。

 気持ち悪い感触に耐えて、奥にある魔石を握り、引っこ抜くと、オーガの体が霧に変わり始める。
 二歩うしろに下がって巨体を見上げれば、振り上げていた腕は切り落とされて落下中、胴体の上にあったはずの頭は消失していた。


「まだ対処できる元気があったか。騎士団生活で体力がついたのかもしれないな」

「大丈夫か、ショーン。汚れてしまったな……」


 っとん、と着地したノアが、黒い剣をサヤに収めながら笑い、隣から歩いてきたアリスター団長が、私の顔についた血を指で(ぬぐ)う。

 この様子じゃ、頭を切り落としたのはノアで、腕を切り落としたのがアリスター団長といったところかな。


第3章 男装騎士の波乱

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