男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
8,魔物だらけの山中
翌朝、食事を済ませてから山のふもとに集合した私たちマリゴールド騎士団は、アリスター団長から今日の班割りを聞く。
「今回は3班に分かれて任務にあたる! 1班のリーダーはノア、メンバーは――」
アリスター団長が名前を呼ぶたび、「はい!」と答える声がした。
2班のリーダーはアリスター団長で、3班のリーダーはベテランの先輩騎士。
私はトム、ネイサン、ニック先輩と一緒に、3班のメンバーとなった。
「山にはアルミラージやコボルト、オークがいるそうだ。オーガが出る可能性もあるから、警戒をおこたらないように!」
「「はい!」」
「では、山に登るぞ!」
1班から順番に山に入っていき、それぞれが担当する場所へ分かれていくと、魔物が大量発生しているだけあって、すぐに魔物と出会った。
坂道を下ってくるのは、ひたいから一本の角が生えたうさぎ、アルミラージの大群だ。
「離れすぎないように気をつけろ!」
「ハァッ!」
アルミラージは角を含めても子どものひざ下くらいまでしかないけれど、ジャンプ力に
逆に言えばそれくらいしか
私はこちらに向かってジャンプしたアルミラージが、ちょうどいい高さに来るのを待ってから剣を振り下ろした。
横にずれて血を被らないようにすると、すぐに次のアルミラージが飛びかかってきて、下から素早く剣を振り上げる。
集団戦だと、血を
血が飛び散る方向を計算しつつ、かぎられた場所をぐるぐる、それこそダンスをするように回らないといけない。
「あ、トム、右」
「え? うわ、っと! さ、サンキュ」
気づいていなそうな敵の位置を教えると、トムはのけぞって剣を振ったあとに、ぎこちなくお礼を言った。
女性だと知られたあの日以降、なかなか目が合わないのは気のせいじゃないだろう。
「むっ、1体そちらへ逃げたよ!」
相変わらず無駄な動作が多いネイサンがとりこぼしたアルミラージが、1体こちらに向かってきてサクッと切り捨てる。
「あぁ、ショーン……くん、怪我はないかな?」
「大丈夫だから、」
振り返って私を見ているネイサンの背中に、別のアルミラージが飛びかかっているのを見て、足元に転がっている石を拾い上げた。
「前に、集中してくれっ」
ネイサンのうしろのアルミラージへ石を投げてから、私の前にいるアルミラージを切る。
しゃがんで前に出ることで吹き出す血を避けると、左からブォンと剣が
「っと」
「……すまない……!」
とっさに剣を避けると、ニック先輩が硬い表情をして私を見る。
「いえ、こちらこそすみません」
「……うしろに、いてくれ」
心配するような
アルミラージは、あと数体だし、ちょっとくらいサボっても気づかれないだろう。
なにより先輩に指示されたんだから仕方ない。
まぁ、トムもネイサンもニック先輩もこんな調子じゃ、すぐ他の団員におかしいと思われそうだけど。
「ハァッ!」
「アルミラージ、片付きました!」
「よし、魔石を取るぞ。他の魔物が来る可能性もある、油断するな」
魔物の死体から魔石を取り出すのと、魔物と戦うの、どちらのほうが楽か。
答えは人によって違うのかもしれないけれど、私にとっては圧倒的後者だ。
「ニック先輩、自分は周囲を警戒しておくので、魔石をお願いします」
「……分かった」
よし、楽な仕事ゲット。
笑みは顔に出さず、あくまでも真剣な表情をとりつくろって辺りに視線を向けておく。
結局、他の魔物に襲われることなく魔石を取り終えると、私たち3班は歩みを再開した。
次に出会ったのは、人型をした犬の魔物、コボルト。
しかし、3体だけだったので、先頭にいた騎士たちがサクッと……ではなかったけれど、無事に倒した。
問題は、魔石を取っている間に2体のオークが坂道の上から現れたこと。
「くっ、オークか……! フォーメーションを作れ!」
リーダーの指示通り動きはしたけれど、正直に言って、オーク2体ごときで大げさじゃないかなと思う。
確かにマリーゴールド騎士団のレベルじゃ、ちょっと苦戦するかもしれないけれど。
先輩騎士たちがそれぞれオークに切りかかったのを見て、危なっかしい動きだなぁと思っていると、トムがおどろいたような声をあげた。
「なっ……! 横からコボルトが!」
「なにっ!?」
見ると、どこに
「反対側にもいます!」
そんな声を聞いて反対側も見れば、そちらにも同じ数のコボルトがいた。
確かにこんなにぞろぞろと湧いてくるんじゃ、うちの家だけで対処するのは無理だろうなぁ。
なんて、のんきに思っていると「ショーン」とリーダーに声をかけられる。
「1体だけでもいい、オークを少しの間足止めできないか?」
「っ、待ってください先輩、それは……!」
「……2体とも引き受けます。どうぞ、コボルトに集中してください」
「……ショーン……!」
「僕もオークの足止めをしましょう」
トムたちが口を挟んでくるのは、私が女性だと知って、か弱い存在だと思うようになったからなのかな。
「いいや、ネイサン。自分1人で充分だ」
ネイサンの助けを断って、私は手始めに、こん棒を振りかぶっているオークの前へ走り出た。
振り下ろされたこん棒を剣の腹で受け流して、うしろに視線を向けながら、にこりと笑ってみせる。
「コボルトの相手はお願いします」
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