男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

8,魔物だらけの山中

約2,300字(読了まで約6分)


 翌朝、食事を済ませてから山のふもとに集合した私たちマリゴールド騎士団は、アリスター団長から今日の班割りを聞く。


「今回は3班に分かれて任務にあたる! 1班のリーダーはノア、メンバーは――」


 アリスター団長が名前を呼ぶたび、「はい!」と答える声がした。
 2班のリーダーはアリスター団長で、3班のリーダーはベテランの先輩騎士。
 私はトム、ネイサン、ニック先輩と一緒に、3班のメンバーとなった。


「山にはアルミラージやコボルト、オークがいるそうだ。オーガが出る可能性もあるから、警戒をおこたらないように!」

「「はい!」」

「では、山に登るぞ!」


 1班から順番に山に入っていき、それぞれが担当する場所へ分かれていくと、魔物が大量発生しているだけあって、すぐに魔物と出会った。
 坂道を下ってくるのは、ひたいから一本の角が生えたうさぎ、アルミラージの大群だ。


「離れすぎないように気をつけろ!」

「ハァッ!」


 アルミラージは角を含めても子どものひざ下くらいまでしかないけれど、ジャンプ力に(ひい)でていて、成人男性の顔にも平気で飛びかかる。
 逆に言えばそれくらいしか特徴(とくちょう)がないのだけれど。

 私はこちらに向かってジャンプしたアルミラージが、ちょうどいい高さに来るのを待ってから剣を振り下ろした。
 横にずれて血を被らないようにすると、すぐに次のアルミラージが飛びかかってきて、下から素早く剣を振り上げる。

 集団戦だと、血を()けるスペースがあんまりないのが欠点だなぁ……。
 血が飛び散る方向を計算しつつ、かぎられた場所をぐるぐる、それこそダンスをするように回らないといけない。


「あ、トム、右」

「え? うわ、っと! さ、サンキュ」


 気づいていなそうな敵の位置を教えると、トムはのけぞって剣を振ったあとに、ぎこちなくお礼を言った。
 女性だと知られたあの日以降、なかなか目が合わないのは気のせいじゃないだろう。


「むっ、1体そちらへ逃げたよ!」


 相変わらず無駄な動作が多いネイサンがとりこぼしたアルミラージが、1体こちらに向かってきてサクッと切り捨てる。


「あぁ、ショーン……くん、怪我はないかな?」

「大丈夫だから、」


 振り返って私を見ているネイサンの背中に、別のアルミラージが飛びかかっているのを見て、足元に転がっている石を拾い上げた。


「前に、集中してくれっ」


 ネイサンのうしろのアルミラージへ石を投げてから、私の前にいるアルミラージを切る。
 しゃがんで前に出ることで吹き出す血を避けると、左からブォンと剣が(せま)ってきた。


「っと」

「……すまない……!」


 とっさに剣を避けると、ニック先輩が硬い表情をして私を見る。


「いえ、こちらこそすみません」

「……うしろに、いてくれ」


 心配するような眼差(まなざ)しを向けられて、ちらりと辺りを見てから従った。
 アルミラージは、あと数体だし、ちょっとくらいサボっても気づかれないだろう。
 なにより先輩に指示されたんだから仕方ない。

 まぁ、トムもネイサンもニック先輩もこんな調子じゃ、すぐ他の団員におかしいと思われそうだけど。


「ハァッ!」

「アルミラージ、片付きました!」

「よし、魔石を取るぞ。他の魔物が来る可能性もある、油断するな」


 魔物の死体から魔石を取り出すのと、魔物と戦うの、どちらのほうが楽か。
 答えは人によって違うのかもしれないけれど、私にとっては圧倒的後者だ。


「ニック先輩、自分は周囲を警戒しておくので、魔石をお願いします」

「……分かった」


 よし、楽な仕事ゲット。
 笑みは顔に出さず、あくまでも真剣な表情をとりつくろって辺りに視線を向けておく。

 結局、他の魔物に襲われることなく魔石を取り終えると、私たち3班は歩みを再開した。

 次に出会ったのは、人型をした犬の魔物、コボルト。
 しかし、3体だけだったので、先頭にいた騎士たちがサクッと……ではなかったけれど、無事に倒した。
 問題は、魔石を取っている間に2体のオークが坂道の上から現れたこと。


「くっ、オークか……! フォーメーションを作れ!」


 リーダーの指示通り動きはしたけれど、正直に言って、オーク2体ごときで大げさじゃないかなと思う。
 確かにマリーゴールド騎士団のレベルじゃ、ちょっと苦戦するかもしれないけれど。

 先輩騎士たちがそれぞれオークに切りかかったのを見て、危なっかしい動きだなぁと思っていると、トムがおどろいたような声をあげた。


「なっ……! 横からコボルトが!」

「なにっ!?」


 見ると、どこに(ひそ)んでいたのか、木々の奥からコボルトが5、6体姿を見せている。


「反対側にもいます!」


 そんな声を聞いて反対側も見れば、そちらにも同じ数のコボルトがいた。

 確かにこんなにぞろぞろと湧いてくるんじゃ、うちの家だけで対処するのは無理だろうなぁ。
 なんて、のんきに思っていると「ショーン」とリーダーに声をかけられる。


「1体だけでもいい、オークを少しの間足止めできないか?」

「っ、待ってください先輩、それは……!」

「……2体とも引き受けます。どうぞ、コボルトに集中してください」

「……ショーン……!」

「僕もオークの足止めをしましょう」


 トムたちが口を挟んでくるのは、私が女性だと知って、か弱い存在だと思うようになったからなのかな。
 常々(つねづね)だらけたいとは思っているけれど、そんな心配なんてしなくていいのに。


「いいや、ネイサン。自分1人で充分だ」


 ネイサンの助けを断って、私は手始めに、こん棒を振りかぶっているオークの前へ走り出た。
 振り下ろされたこん棒を剣の腹で受け流して、うしろに視線を向けながら、にこりと笑ってみせる。


「コボルトの相手はお願いします」



第3章 男装騎士の波乱

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