男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
6,シャノン・ローズのおどろき
気持ち、顔が赤くなったアリスター団長は、コホンとせき払いをして、「お話をお聞かせください」と仕事の話をした。
それに答えるのは、お父さま……ではなく、お母さま。
「モバリー領に現れた魔物は、我々ローズ家の者が代々
「というと、シャ……ショーンも?」
「えぇ。ある程度の年齢から、討伐に参加させております。騎士団でも役に立っておりますでしょう?」
「……はい」
お母さまに笑顔を向けられて、アリスター団長は困ったように
実際のところ、騎士になってからまだゴーレムとしか戦ってないからね……。
「特に、このローズ
「……先日、私が山に入ったところ、次から次に魔物が現れ、討伐が追い付かず…モバリー
「なるほど……魔物の種類はいかようでしたか?」
「アルミラージと、コボルト、オークの3種を確認しました。今回は見ていませんが、あの山にはオーガが出ることもあります」
「アルミラージ、コボルト、オーク、それにオーガですか。分かりました」
アリスター団長は考え込むように視線を落とす。
どれも私は倒したことがあるし、強い魔物ではないから、数以外、問題はないと思う。
まぁ、マリーゴールド騎士団にとってはいい相手かもしれないけれど。
情報共有をしたあとは、騎士団の近況や、お父さまの現役時代の話、私の様子なんかを話した。
私は置物のように座って、相づちを打つくらいしかしなかったけれど、そうしている間に領主さまがお越しになったらしい。
「我が領へお越しくださりありがとうございます。必要な支援は惜しみなくいたしますので、よろしくお願いいたします」
お父さまより少し年上のモバリー子爵さまと、幼いころに一度だけ顔を合わせたことがある跡継ぎの令息。
2人がアリスター団長とノアに礼をするのに合わせて、モバリー子爵の臣下に近い私たちも頭を下げた。
子爵は男爵より1階級上の貴族。
最下位の
「魔物は我々マリーゴールド騎士団が
モバリー子爵さまとアリスター団長が話している間、姿勢を正しながら、ひまだな、と思っていると、視線を感じた。
ちらりと目を向ければ、なぜかモバリー子爵令息にガン見されている。
お兄さまの1歳上ということを
ひとまず目礼をしておくと、令息から、愛想をかき集めたような笑みを向けられた。
キラキラさせているつもりだろうけれど、アリスター団長のまぶしさを見てしまうと、その格差に失笑してしまう。
不敬だから顔には出さず、私も愛想よく微笑んでおいたけれど。
「ローズ男爵、よくおもてなしするように」
「はい」
モバリー子爵さまがマリーゴールド騎士団へのあいさつを終えて帰っていくと、応接室での接待も一度終わりとなった。
私はお母さまから、アリスター団長とノアを部屋へ案内するように言われて、2人を連れ、廊下に出る。
「こちらが団長さまのお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」
「あ、あぁ、ありがとう。つかの間の時間だが、シャノン嬢も羽を伸ばして休んでくれ」
「ありがとうございます」
微笑んで答えると、アリスター団長はぎこちない挙動で部屋に入っていった。
団長どのも、ずっと男性だと思っていた部下がドレスを着ているから、反応に困るんだろうなぁ……。
「ノアさまのお部屋はこちらです」
「俺とは、今まで通りでいいだろう。面識があっても問題はないんだ」
「……それもそうですね。昔泊まっていた部屋を用意しているそうです。一応案内はしますけど、勝手に動いてください」
「あぁ」
肩の力を抜いて歩くと、顔の横にノアの頭が寄せられる。
「いい香りだ。シャノンが着飾るときの匂いだな」
ノアの声が耳のすぐ横で聞こえて、ぞくりとした。
「……あの、そうやってすぐに近づくのやめてもらえませんか」
「きれいだ。シャノンが一番美しいのは、剣を振っているときだが」
聞いてないし……。
美しいと言われるのが嫌味に聞こえるほど、美しく微笑んでいるノアを横目に見て、早足で歩く。
「部屋で大人しくしててください」
「シャノン」
お腹に腕が回された次の瞬間には、うしろへ抱き寄せられていた。
目を丸くした私の後頭部が、ぽすんとノアの肩に当たる。
ノアのこういうところ、困るんだよね……。
「この邸宅を出てから、俺はいつもシャノンのことを考えていた。騎士をやめたら、俺と共に生きないか」
「せっかく騎士を続けられることになったのに、やめたときの話するのやめてもらえません? 縁起が悪いです」
「俺はもう、シャノンがいない生活には戻れない。シャノンと離れている間に痛感した」
「……師匠って、弟子に執着するものじゃないと思うんですけど」
「これは
じゃあ、なんの話なの。
私とノアの間に、師匠と弟子以外の関係なんて……。
「男と女の話だ。俺はシャノンに、異性としての魅力を感じている。剣を持ったシャノンは誰よりも美しい」
「……正気ですか?」
「正気だ。
甘くささやいて、ノアは私を離した。
……まさか、ノアに恋愛感情を向けられていたなんて。
いつか誰かと結婚することになったとしても、契約結婚しかしないと思ってたのに……。
私って、恋愛に縁があったの?
いたって真剣におどろきながら、私は「あとは1人でいい。シャノンも部屋に戻ってゆっくりしろ」と言うノアを、棒立ちで見送った。
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