男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
4,騎士団対抗戦の取引
ノアを人質にする……それなら、私を騎士団に残してもらえる可能性も高まるかも。
女だってすぐに認めたときはどうしてくれようかと思ったけど、なかなかいいことを言うじゃん、ノアも。
「来月の騎士団対抗戦に勝つためには、俺とシャノンが必要なのではないですか」
「それは……」
「騎士団、対抗戦?」
アリスター団長は言葉に詰まっているけれど、騎士団対抗戦に勝つことがそんなに大事なの?
確かに、来月あたりが今年1回目の騎士団対抗戦の時期だろうけれど。
トムたちは事情を知ってるのかな、と視線を向けると、目を丸くして首を横に振られた。
「……ナギービの森の件で、キース団長の処罰が認められなかったんだ。それで、騎士団対抗戦で、僕たちが3つ以上の騎士団に勝つことができたら……」
「スイセン騎士団の団長を1ヶ月
「たった1ヶ月謹慎させるだけ、なんですか……」
「それでも、なにも罰が与えられないよりは、ましだからな」
アリスター団長は苦笑いする。
まぁ、確かに。
それなら、せめて騎士団対抗戦が終わるまでは、騎士団に残してもらえるかも。
「アリスター団長、」
「だが、それはまた次の機会でもいい。規則が、というのもあるが、成人もしていない女性を騎士として働かせるわけにはいかない」
「……今年中には、成人します」
苦しいとは思いながらも言い添えると、アリスター団長は子どもを見るように笑って、表情を引き締めた。
「ナギービの森への
「みすみす死んだりはしません。私は誰よりも自分を大切にしています。できる範囲のことだから、騎士になったんです」
「ダメだ、シャノン嬢」
アリスター団長と一歩も引かずに見つめ合って、奥歯をかむ。
どうすれば私の将来を守れる……!?
「俺を手放してもかまわないということですね」
「……あぁ」
ノアに話しかけられて、アリスター団長は目を伏せた。
私の肩に、ノアの腕が回される。
「シャノン、もういいだろう。ローズ家は残念だが、シャノン1人なら俺が面倒を見る」
「一生ノアが養ってくれるとでも?」
半目になってにらむと、ノアはあっさり「あぁ」と答えた。
「
「ノア先輩! シャノン嬢を傭兵にさせる気か?」
「えぇ。たまには運動も必要でしょう。俺がそばで守るので心配は無用です」
「は……」
傭兵とかイヤなんだけど!
私は
ダメだ、ノアは頼れない。
やっぱり騎士団で5年勤め上げて、自分で自分の将来を守るしかない……!
「アリスター団長! 私たちを危険な目にあわせたキース団長を野放しにしていいのですか。私が勝利を持ち帰ります!」
「シャノン嬢……だが……」
ずい、と詰め寄ると、アリスター団長は半歩下がって、困った顔をする。
「騎士団対抗戦を
「う……む……」
「私が危険な目にあうのが心配なら、そんな仕事を割り振らなければいいんです。アリスター団長は全権を持っているのですから!」
説得にサボりチャンスの種を混ぜつつ、まっすぐアリスター団長を見つめると、パッチリくっきりしたその瞳は右へ左へ泳いだ。
かなり迷っている様子だ。
「騎士……傭兵……しかし……」
ぶつぶつとなにを言ってるのかは分からないけれど、あと一押しな気がする。
「必ずマリーゴールド騎士団の役に立ってみせます! ゴーレムも、次に会ったときは1人で倒してみせますから!」
ノアにやり方を教われば、私も魔石や岩を切れる気がする。
なにしろ、ノアに教わってできなかったことはないもの。
「ゴーレム……」
つぶやいたアリスター団長は、私を見て瞳を揺らした。
そして、ぐっと唇を引き結ぶ。
「……分かった。シャノン嬢のことは、僕たちだけの秘密にする。これからもショーンとして、マリーゴールド騎士団にいてかまわない」
「本当ですか! ありがとうございますっ」
「ただし。本物のショーンが見つかるまでだ。再来年の入団試験までに、必ずきみの兄ぎみを見つける。以降は、令嬢に戻ること」
それは、望むところ。
真剣に私を見つめる目を見つめ返して、私はにこりと笑った。
「もちろんです。お兄さまを見つけたそのときは、5年間逃げ出さないように監視して、
「あ、あぁ……」
アリスター団長は口元を手でおおって、少し顔を背ける。
うん……? ほんのり顔が赤いような。
「俺が嫁にもらうというのに……わざわざ大変な道を選ぶとは、シャノンらしくもない」
「は? イヤです、
「金はある。たまに剣を振るう機会を用意するだけだ」
その“たまに”がいらないの。
そっぽを向くと、アリスター団長が気を取り直したように、みんなに声をかけて解散することになった。
「トム、ネイサン、ニック。シャノン嬢のことは口外しないように」
「「……はい」」
トムたちは複雑そうな顔をして、一度私を見たあとに部屋を出ていく。
ノアとアリスター団長も続くように出ていったのだけれど……肩の力を抜いて扉を閉めようとすると、アリスター団長が戻ってきた。
「シャノン嬢」
手を差し出されて、疑問に思いながら手を重ねると、アリスター団長は腰をかがめて、私の手の甲に口づけを落とした。
「騎士を辞めたきみの行く末が傭兵だと言うなら、せめて、僕の目が届くところで守る。そう決めて残ることを許可したが……」
「あ、アリスター団長……っ!?」
「決して、無理はしないように。ゴーレムに会ったときのように危険なことがあれば、今度は限界を迎える前に逃げてくれ」
私も令嬢ではあるけれど、男性に手の甲へ口づけされるなんて経験は初めてだったから、動揺してしまう。
それもこんな美丈夫が相手なんて、まるで物語みたいだし……っ。
「……いいな?」
心配そうな目で見つめられて、私は触れた手も、顔も、熱を持ったのを自覚しながら、「……はい」とうなずいた。
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