男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

2,一難去ってまた一難

約2,100字(読了まで約6分)


Side:シャノン・ローズ

 一瞬で眠気が吹き飛んだ……。
 この状況、どうしよう。


「しょ、ショーン、お、お前、お、お、おんっ……!」


 落ち着くの、私。
 なんとかなる、なんとかする、じゃないと終わり!


「……おん、なに? 悪いけど、1人にしてくれないか。すぐ出るから」

「ショーンくん? 背中に傷なんて、ないみたいだけれど……」

「言い間違えたんだ、怪我をしたのは胸。手当も自分でできるから、心配しなくていい」

「む、胸って、胸、あ、あった……っ!」

「と、に、か、く。今すぐ、出ていってくれ」


 気づいたのはトム1人だけみたいだし、それならなんとか言いくるめられる。……はず、多分。
 だからとにかく3人で一緒に出ていって、包帯巻いて体勢立て直すから!

 包帯で隠れてはいるけれど、膨らみで女とバレてしまう胸を両腕で隠して、背中を向けていると、肩にぽんと手が置かれた。
 悲鳴が出そうになった口を、とっさに片手で押さえる。


「……ショーン、大丈夫、……」

「だ、大丈夫です。なので今は1人にしてください」

「……」


 肩に乗った手が離れて、ほっとした。


「まぁ、ショーンくんがそこまで言うなら」

「お、おん、おん、おん……!」

「……」


 正常なネイサンと、動揺したトム、無言のニック先輩が出ていった気配を感じとると、私はすぐに包帯を巻き直した。
 それはもう、いつも以上にきつく。
 そしてすぐに服を着ると、深呼吸をして心を落ち着けてから、風呂場を出た。


「……あれ、誰もいないな」


 てっきりあの3人が待ってると思ったのに。
 まぁ、いないなら好都合。
 今のうちに部屋へ戻って、夢でも見たんじゃないの、と明日ごまかしてしまおう。

 私はそう決めて、足早に自分の部屋を目指した。
 頭はすっかりさえたけれど、ベッドに横になると、飛んでいった眠気が戻ってきて、うつらうつらとしてくる。

 睡魔の前では、全部どうでもいいなぁ……。
 すべて明日の私に投げ渡そう……。

 そうやって、眠りに落ちる直前までいったとき、コンコンと扉がノックされた。
 眠すぎるから無視しようと思ったのだけれど、「ショーン、いるか」と聞こえたのがアリスター団長の声だったので、渋々起き上がる。


「はい……なんですか……?」


 あくびをかみ殺しながら扉を開けると、思いっきり寝る前というラフな格好をしたアリスター団長が、物言いたげな顔で立っていた。
 その奥には、トム、ネイサン、ニック先輩の3人が控えていて、目が覚めていく。

 まさかアリスター団長に、即刻チクりに行くとは……!


「その……トムとニックから、気になる話を聞いてな。ここではなんだから、中に入ってもいいか?」


 “トムとニック”って……ニック先輩も気づいたの!?
 まずいまずい、2人も証言者がいたらさすがにごまかしきれない……!
 どうする私、どうやって逃げ切る……!?


「えっと……明日にはできませんか?」

「2人から聞いた話が本当なら、緊急事態なんだ」

「ハハハ、マサカ……心当たりがないので、明日でも大丈夫です」

「だが、その……」


 アリスター団長、しつこい……!
 強引にでも閉め出す?
 ここは時間稼ぎをして、対抗策を練らないといけないし……!

 いっそのこと、と強硬(きょうこう)手段を考えていると、キィ、と廊下の先で扉が開く音がした。


「……こんな時間に、ショーンの部屋の前でなにを?」

「ノア……ちょうどいい、ノアも来てくれないか」


 ノア登場!?
 よかった、1人より2人……!


「……分かりました、アリスター団長。どうぞ中へ」


 私は平静を装って、扉を大きく開ける。
 アリスター団長と、トム、ネイサン、ニック先輩に、ノアの5人を迎え入れると、私はノアのそばに立った。
 狭い部屋にぎゅうぎゅう詰めになりながら、アリスター団長が私に向き直る。

 緊張した面持ちで、形のいい唇が開かれた。


「ショーン。トムとニックが、きみが女性だったと言っているんだが……」

「まさか、」

「もうバレたのか」

「ちょっ!」


 ノア!? なに言ってるの!?
 味方になると思って迎え入れたのに!

 バッとノアの顔を見ると、とんでもないことをしでかしたのに、涼し気な無表情をしていた。


「ノア、先輩……まさか、本当に……?」

「仕方なくそう呼んでいましたが、俺の愛弟子(まなでし)はショーンという名前ではありません」

「ノア!」


 これ以上なにも言わせるものか、とノアの口を両手でふさいでから、恐る恐るアリスター団長を見る。
 アリスター団長は、ぼう然とした顔をして、私と目が合うと、パッと視線をそらした。


「詳しく、説明してくれ」

「いえ……自分は正真正銘(しょうしんしょうめい)、ショーン・ローズで、間違いなく男です」

「ショーン、いや……もう、きみが言い(のが)れできる段階ではない。僕も、きみの胸に包帯が巻いてあるのは、見たことがある」


 なんですって……。
 あれかな、やっぱり手合わせしてお腹を怪我したとき、上半身全部見られてたのかな……。
 さっきは非常事態でそれどころじゃなかったけど、何人に肌を見られてるの、私は。
 さすがに女性として恥ずかしいのだけれど。


「その件は、本当にすまない。いくらでもわびる!」

「……」


 アリスター団長に頭を下げられて、私は視線を泳がせたあと、観念することにした。


第3章 男装騎士の波乱

(※無断転載禁止)