男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
1,湯上がりの偶然
Side:シャノン・ローズ
ぬるくなった湯舟に体を沈めて、「ふぅ」と息を吐き出す。
このおんぼろ宿舎にも、共同で1つとは言え、お風呂があるのはいい点だった。
「もうすぐで、騎士団に入ってひと月か……アリスター団長と手合わせしたあとを
長いようで短いこの期間、騎士としての生活には慣れてきたけれど……。
訓練がハードすぎて、当初の手抜き計画は砕け散ってしまった。
ノルマを達成できているわけでもないけれど、訓練を最初から最後まで受けてしまっているこの現状、放置していいものか。
「自分は真面目に騎士になる気なんてないんだ、もっとサボれる環境を作らなければ」
改革が必要だと、ぬるま湯の中で拳を握って、あれこれ考えを働かせた。
ゴーレムがいたナギービの森へ
どうやらあれはキース団長の
ひとつ確かなことは、キース団長は今もふつうに仕事をしている、ということ。
恐らく、キース団長が自分に不都合なことをもみ消して、なあなあにしたのでは、と思っている。
そういう悪知恵だけはよく働きそうだもの。
まぁ、アリスター団長もノアも、怒り
トムたちいわく、怒った顔のアリスター団長はかなり怖かったらしい。
あのキラキラで、よく笑っているアリスター団長が怖い顔をしているところなんて、私には想像がつかないのだけれど。
「……眠くなってきた。そろそろ上がって寝るか……」
口を押さえてあくびをしながら、私は立ち上がって、体の水気を拭くための布を持った。
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Side:トム・カーライル
「っ、はー……今日はここまでにしますか」
「ふぅ……そうだね」
「……あぁ」
ナギービの森でゴーレムに出くわしてから、俺の中にはずっと、もやもやした気持ちがあった。
そのもやもやは、遠征から帰った数日後、訓練が終わったあとに、1人で自主練習をしているニック先輩を見つけて、明確な形になった。
「こうやって自主練を続けてたら、俺たちも強くなれるかな。ショーン1人に背負わせないくらい」
「もちろんだとも。才能あるこの僕が努力をしたら、すぐさま英雄になってしまう」
「ははっ、ネイサンは自信満々だな」
「……頑張るしかない。今までより、もっと」
ゴーレムに一撃で倒されて、自分の足で立ち上がることさえできなかった。
そんななか、ショーンはすぐさま俺たちを逃がす判断をして、たった1人でゴーレムに立ち向かっていったんだ。
訓練にもついていけないくらい、俺たちマリーゴールド騎士団の中で、一番体が弱いやつなのに。
アリスター団長とノアさんに、ショーンを託すしかなかった自分が、悔しかった。
俺に、俺たちにもう少し力があれば、ショーン1人に押しつけることもなかったのに。
「ふっ、みんな、見たまえ。星がきれいだよ。夕飯を食べたあとに自主練習を始めるのもいいものだね」
「うわ、本当だ! ちょっとしたご
「……これからは、この時間にするか?」
「賛成!」
今までは訓練が終わったすぐあとに自主練習を始めてたけど、今日は団長に、飯に誘われて、いつもより遅く始めたんだよな。
すっかり遅い時間になっちまったけど、頑張ったあとにこんなきれいな夜空を見上げられるなら、この時間に自主練をするのもいいもんだ。
「汗を流したあとに星をながめて、湯浴みをする。ふふっ、実に
「風呂はちょっと冷めてるかもしれないけどな~」
3人で宿舎に戻って、風呂場へ向かうと、ガチャリと扉を開けた向こうに、人がいた。
ズボンだけ履いて、背中を向けているけど……あの赤髪と小柄な体はショーンだな。
ただひとつ気になるのは……。
「え、」
「ショーン? ……どうしたんだ、その包帯?」
振り向いておどろいた横顔を見せたのは、やっぱりショーン。
その背中には白い包帯が巻かれていて、ショーンの手は包帯の端を握っていた。
「いや、その、これは」
「……怪我、してるのか?」
「大丈夫かい、ショーンくん? いつの間にそんな大怪我を……」
「はっ、まさかゴーレムと戦ったときに!?」
「えっ? あ、あぁ、そう……だ、うん、少し背中をやられて……な」
顔を背けたショーンがどんな表情をしてるのか。
背中にこんな大怪我をしてたってのに、俺たちはなんにも気づかずにいたなんて。
俺はギリッと奥歯をかんで、ショーンに近づいた。
「ちゃんと手当はできてるのか!? 俺が薬を塗ってやる!」
「はっ? ちょ、ちょっと待った、大丈夫っ、大丈夫だから、さわっ――!」
ショーンの手から包帯をうばいとって、くるりとショーンの体の周りを1周、逆回転させると。
「え……?」
緩んだ包帯が垂れ下がって、傷ひとつない背中が現れた。
どういうことだ、とショーンの顔を見れば、目を泳がせて、焦った表情をしている。
その下で、両腕を使って隠すようにしている胸に……見えてしまった。
男の体にはできえない、谷間と呼ばれるものが。
「おん……な?」
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