男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

14,人間離れした天才たち

約2,500字(読了まで約7分)



「1人でよく頑張ったな。あとは僕たちに任せて、ゆっくり休むんだ」


 慈愛(じあい)を持って見つめるように笑ったアリスター団長は、くしゃくしゃと私の頭をなでると、私の体を木の幹に預けた。
 胸にじんわりと広がる温かいものを感じながら、立ち上がるアリスター団長を見上げれば、団長どのはにこりと笑って背を向ける。


「ノア、ゴーレムの動きを封じてくれるか!」

「封じるだけでいいんですか?」

「あぁ!」

「分かりました」


 頭がぼーっとする。
 急に重くなってきたまぶたを必死に持ち上げながら、戦いの様子を見ると……。
 キラッと、ゴーレムの肩の辺りでなにかが光った次の瞬間、ポロッとゴーレムの頭がとれた。

 そして、今度はゴーレムの足の横がキラッとして、足が切り飛ばされる。
 ズシンッと、先ほどのように転んだゴーレムは腕をつえにして立ち上がろうとしたけれど……。
 その腕の上で、またキラッとなにかが光って、岩の腕が切り落とされた。
 反対側の腕も切り落とされるころには、そのキラッと光ったものが、ノアの剣先だと気づく。

 あっという間に胴体だけになったゴーレムへ歩いて近づいていったアリスター団長は、スッと剣を構えた。
 あれは……突きの体勢?

 岩の体を持つゴーレムに、突きが通じるわけが……と思いながら見ていると、みぞおちの辺りを狙ってくり出された突きは。
 ピシピシッとゴーレムの体にヒビを入れて、岩の巨体を砕け散らせた。


「は……」


 アリスター団長は岩の欠片の中から魔石を拾い上げると、向かいにいるノアにそれを投げ渡す。
 ノアは放物線を描く魔石に、剣を振り抜き……それを、真っ二つに切ってしまった。


「なかなかやりますね……アリスター団長」

「あぁ。ノアもさすがだ!」


 ……どっちも、人間離れしすぎ。
 私は笑いながら、霧となって消えていくゴーレムの砕け散った体を最後に見て、意識を手放した。


****
Side:アリスター・カルヴァート

 気絶したショーンを横抱きにしたノア先輩と一緒に森を出ると、外で待機させていた部下たちの他に、スイセン騎士団の面々がいた。
 その先頭にいるキース団長は、僕たちを見るなり、ピクリと眉を動かす。


「おや、カルヴァート団長。ショーン・ローズはどうしたのかね?」

「ショーンは魔物との戦闘で()へいして気を失いました。怪我はありません」

「……魔物、とは?」

「ゴーレムです。どうやら、この森に(ひそ)んでいたようで」

「なに? ……倒したのか?」


 目を細めるキース団長を見て、イヤな予感がした。

 いや、いくら僕が嫌われているとしても、そんなことをするお方ではないか……。


「えぇ。ショーンが居合わせた団員を逃がして、1人で戦っていてくれたおかげで……誰1人怪我なく。幸いなことです」


 にこりと笑うと、キース団長は口元を手で隠す。


「チッ……」


 ……今聞こえたのは、舌打ちか?
 いや、まさか。
 ゴーレムがいると分かった上で、僕になにも知らせず遠征(えんせい)に行かせるわけがない。
 そんな、部下たちの命を失いかねないようなこと……。


「……そうか。それは申し訳ないことをした。私も、きみたちが出立してから、シクラメン騎士団の団長よりナギービの森は今、危険だと聞いてな」


 つんとあごを上げて、冷たい目をしながら淡々(たんたん)と話す様子を見て、分かってしまった。
 キース団長は今、うそをついていると。

 そこまで、極悪な方ではないと信じていたのに……。


「はたして、その言葉は本当でしょうか。俺はマリーゴールド騎士団の遠征前から、シクラメン騎士団がこの森へ遠征したと聞いていましたが」

「ノア・エクルストン。きみは、私がこの森の危険性を知った上で、きみたちを遠征に行かせたと?」

「えぇ。大方、マリーゴールド騎士団の壊滅(かいめつ)を狙ったのでしょう」

「ふっ……マリーゴールド騎士団は、私がカルヴァート団長に与えたものだ。なぜ、壊滅させる意味がある?」

「手段を選ばないあなたのことです。俺たちが欲しかったのでしょう」


 ノア先輩は淡々と言いながら、ショーンを片手で抱き直す。
 そして、空いた右手に剣を握り、サヤから黒い剣身を引き抜いた。


「俺の愛弟子(まなでし)を危険にさらした罪……今この場で、つぐなっていただいてもかまいませんよ」

「貴様っ、団長に向かって!」

「ノア!」


 剣先をキース団長に向けたノア先輩をとっさに止めると、氷でできたナイフのような目を向けられる。
 その目を見て、言葉を失ってしまった。

 ノア先輩は、誰よりもショーンを可愛がっている……怒るのも無理はない。
 僕だって、大事な部下たちを危険にさらされたこと……。

 いい加減、キリをつけるべきかもしれない。


「……キース団長。今回の件、今までのように終わらせたりはしません。シクラメン騎士団の団長も交えて、一度お話しましょう」

「……アリスター・カルヴァート。私を疑う気か?」

「えぇ。あなたは、今まで僕に数々の悪意を向けてきました。害のある形で。それを、僕の大事な部下たちにまで向けるのは……許しません」


 笑みを消してキース団長を見据(みす)えると、顔をゆがめてにらみ返された。


「今までの清算をしましょう。僕は、あなたと決闘をすることも辞さない覚悟です」

「……ふんっ、貴様ごときに、この私を罰することはできない」

「俺は規則になど縛られる気がないこと、覚えておくといいでしょう。あなたが欲しがった剣の腕、その体に証明して差し上げます」

「……部下が疲れているので、これで失礼いたします。王都で、またお会いしましょう」


 頭を下げてキース団長の横を通り過ぎてから、硬い表情をしている部下たちに笑顔を向ける。
 すると、いくらか顔のこわばりがとれたようだ。


「みんな、王都に帰ろう」

「「はい!」」


 僕にマリーゴールド騎士団をくださったことには感謝しています。
 けれど、僕たちの悪縁はここまでにしましょう、キース団長。


「忠告しておきます。このような手を使う人のもとには、死んでも(くだ)りません。特に、俺の愛弟子に傷をひとつでもつけたら……そのときは」


 ひそ、とささやいた声が聞こえてしまって、苦笑いする。
 “死んでもらう”、なんて……王国を象徴(しょうちょう)する騎士になると言われた人が言う言葉ではないな。


第2章 2人の天才剣士

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