男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
14,人間離れした天才たち
「1人でよく頑張ったな。あとは僕たちに任せて、ゆっくり休むんだ」
胸にじんわりと広がる温かいものを感じながら、立ち上がるアリスター団長を見上げれば、団長どのはにこりと笑って背を向ける。
「ノア、ゴーレムの動きを封じてくれるか!」
「封じるだけでいいんですか?」
「あぁ!」
「分かりました」
頭がぼーっとする。
急に重くなってきたまぶたを必死に持ち上げながら、戦いの様子を見ると……。
キラッと、ゴーレムの肩の辺りでなにかが光った次の瞬間、ポロッとゴーレムの頭がとれた。
そして、今度はゴーレムの足の横がキラッとして、足が切り飛ばされる。
ズシンッと、先ほどのように転んだゴーレムは腕をつえにして立ち上がろうとしたけれど……。
その腕の上で、またキラッとなにかが光って、岩の腕が切り落とされた。
反対側の腕も切り落とされるころには、そのキラッと光ったものが、ノアの剣先だと気づく。
あっという間に胴体だけになったゴーレムへ歩いて近づいていったアリスター団長は、スッと剣を構えた。
あれは……突きの体勢?
岩の体を持つゴーレムに、突きが通じるわけが……と思いながら見ていると、みぞおちの辺りを狙ってくり出された突きは。
ピシピシッとゴーレムの体にヒビを入れて、岩の巨体を砕け散らせた。
「は……」
アリスター団長は岩の欠片の中から魔石を拾い上げると、向かいにいるノアにそれを投げ渡す。
ノアは放物線を描く魔石に、剣を振り抜き……それを、真っ二つに切ってしまった。
「なかなかやりますね……アリスター団長」
「あぁ。ノアもさすがだ!」
……どっちも、人間離れしすぎ。
私は笑いながら、霧となって消えていくゴーレムの砕け散った体を最後に見て、意識を手放した。
****
Side:アリスター・カルヴァート
気絶したショーンを横抱きにしたノア先輩と一緒に森を出ると、外で待機させていた部下たちの他に、スイセン騎士団の面々がいた。
その先頭にいるキース団長は、僕たちを見るなり、ピクリと眉を動かす。
「おや、カルヴァート団長。ショーン・ローズはどうしたのかね?」
「ショーンは魔物との戦闘で
「……魔物、とは?」
「ゴーレムです。どうやら、この森に
「なに? ……倒したのか?」
目を細めるキース団長を見て、イヤな予感がした。
いや、いくら僕が嫌われているとしても、そんなことをするお方ではないか……。
「えぇ。ショーンが居合わせた団員を逃がして、1人で戦っていてくれたおかげで……誰1人怪我なく。幸いなことです」
にこりと笑うと、キース団長は口元を手で隠す。
「チッ……」
……今聞こえたのは、舌打ちか?
いや、まさか。
ゴーレムがいると分かった上で、僕になにも知らせず
そんな、部下たちの命を失いかねないようなこと……。
「……そうか。それは申し訳ないことをした。私も、きみたちが出立してから、シクラメン騎士団の団長よりナギービの森は今、危険だと聞いてな」
つんとあごを上げて、冷たい目をしながら
キース団長は今、うそをついていると。
そこまで、極悪な方ではないと信じていたのに……。
「はたして、その言葉は本当でしょうか。俺はマリーゴールド騎士団の遠征前から、シクラメン騎士団がこの森へ遠征したと聞いていましたが」
「ノア・エクルストン。きみは、私がこの森の危険性を知った上で、きみたちを遠征に行かせたと?」
「えぇ。大方、マリーゴールド騎士団の
「ふっ……マリーゴールド騎士団は、私がカルヴァート団長に与えたものだ。なぜ、壊滅させる意味がある?」
「手段を選ばないあなたのことです。俺たちが欲しかったのでしょう」
ノア先輩は淡々と言いながら、ショーンを片手で抱き直す。
そして、空いた右手に剣を握り、サヤから黒い剣身を引き抜いた。
「俺の
「貴様っ、団長に向かって!」
「ノア!」
剣先をキース団長に向けたノア先輩をとっさに止めると、氷でできたナイフのような目を向けられる。
その目を見て、言葉を失ってしまった。
ノア先輩は、誰よりもショーンを可愛がっている……怒るのも無理はない。
僕だって、大事な部下たちを危険にさらされたこと……。
いい加減、キリをつけるべきかもしれない。
「……キース団長。今回の件、今までのように終わらせたりはしません。シクラメン騎士団の団長も交えて、一度お話しましょう」
「……アリスター・カルヴァート。私を疑う気か?」
「えぇ。あなたは、今まで僕に数々の悪意を向けてきました。害のある形で。それを、僕の大事な部下たちにまで向けるのは……許しません」
笑みを消してキース団長を
「今までの清算をしましょう。僕は、あなたと決闘をすることも辞さない覚悟です」
「……ふんっ、貴様ごときに、この私を罰することはできない」
「俺は規則になど縛られる気がないこと、覚えておくといいでしょう。あなたが欲しがった剣の腕、その体に証明して差し上げます」
「……部下が疲れているので、これで失礼いたします。王都で、またお会いしましょう」
頭を下げてキース団長の横を通り過ぎてから、硬い表情をしている部下たちに笑顔を向ける。
すると、いくらか顔のこわばりがとれたようだ。
「みんな、王都に帰ろう」
「「はい!」」
僕にマリーゴールド騎士団をくださったことには感謝しています。
けれど、僕たちの悪縁はここまでにしましょう、キース団長。
「忠告しておきます。このような手を使う人のもとには、死んでも
ひそ、とささやいた声が聞こえてしまって、苦笑いする。
“死んでもらう”、なんて……王国を
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