男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
14,体力の限界を迎えて
他の団員がどこに散っているか正確に分からない以上、ゴーレムをどこかに連れていくわけにもいかない。
それに、ゴーレムの姿は丸見えで、私の姿は木々の中に隠せるというこの地形は、なかなか私に有利だ。
よって、私はゴーレムを他の場所に移動させないよう、円を描くように立ち回っていた。
「ほらっ、次はこっちだ!」
言葉が通じるとは思っていないけれど、声をかけながらゴーレムの視界の隅へ走っていくと、私のあとを追うように拳が振るわれる。
それを、片方のひざを折り曲げて、地面を滑るように姿勢を低くしながら避けると、勢いを殺すように地面に手をついて、反対側に走り出した。
ときどき木の裏に隠れて小休止してはいるけれど……私の体力のなさは折り紙つきだ。
息が上がって、呼吸がしんどくなってきた。
「ゴオオオオオ!」
「っあぁ、少しは休ませろっての……!」
いらだったように地団駄を踏んで、ゴーレムが両腕を振り下ろす。
私は、うしろに下がって拳を避けると、ドスンッとごう音を鳴らした拳に飛び乗った。
バランスを取りながら、ゴーレムの腕を駆け上がって、肩に当たる部分に足をかける。
水平に構えた剣を体のうしろに引いて、思いっきり前に振り抜くと、ゴーレムの頭はポロッと地面に落ちた。
この間に!
「はぁっ、はぁっ……」
頭が落ちた方向とは反対方向に飛び降りて、ゴーレムの体を死角にするように、木々の中へ逃げ込む。
素早く幹の裏に隠れると、片手で胸を押さえて呼吸を整えた。
「はぁ、はぁ……」
ひたいから流れる汗を制服のそでで拭ったら、ブォンッとゴーレムが攻撃をしかける音が聞こえる。
慌てて木から離れると、私が背にしていた木がバキバキッとなぎ倒された。
「チッ……」
頭が元の位置に戻ったゴーレムに見下ろされて、重くなってきた腕で剣を構える。
ゴーレムはこちらへ一歩踏み出すように足を振り上げてきた。
逃げ場を探してゴーレムの股下に目をつけると、私はそこをくぐり抜けるように、向かい側へとダッシュする。
そして、ズササッと前に出した右足で勢いを殺すように反転して、ゴーレムが軸足にしている左足の付け根を切った。
そのままではすぐにくっついてしまうから、左足にタックルして体を支える足をなくしてやる。
すぐにバックステップをすると、
「はっ、はっ……」
私の目の前で、ゴーレムは転んで尻もちをついた。
足の付け根が地面に接しているせいで、どうやらゴーレムが立ち上がるまで、左足がくっつくことはないらしい。
今が、隠れて休むチャンスだと言うのに……体が重くて動かない。
「まずい、かもな……」
そろそろ……ううん、もう限界を迎えているみたい。
ノアも、アリスター団長もまだ来ていないというのに……。
「はぁ、はぁ……っ」
剣を地面に突き刺しながら呼吸だけは整えると、ゴーレムが立ち上がり出した。
何回か転んで、腕をつえにしながら体勢を立て直すと、切り飛ばした左足が元の位置に戻る。
ゆっくり振り返るゴーレムを見ている間も、私は動けなかった。
「ゴオオ……オオオ!」
「くっ……!」
うしろに引いてから、まっすぐ私に向かって振り抜かれた岩の拳を、なんとか持ち直した剣の腹で受け流す。
しゃがんで体勢を低くすると、足がぷるぷるふるえて、すぐに転んでしまいそうだった。
バキバキッと、私のうしろで木がへし折られる音がする。
剣から伝わる重さがなくなって顔を上げると、ゴーレムの腕が真上に振り上げられていた。
このまま振り下ろされたら……死ぬかも。
影を作りながら
死にたくないっ、なんとかなれ!
「ショーン!」
私を呼ぶ声がしたと思ったら、お腹に腕が回って、横から突っ込んできた人と共に、私は地面へ転がり込んだ。
その直後、ズシンッという地響きがもろに体へ伝わったものの、体が潰されるような痛みはなく……。
そっと目を開けると、真剣な顔をした、金髪の美丈夫が目と鼻の先にいた。
整った顔を至近距離で目にしたせいか、
「ありすた、」
「っ、次がくる!」
アリスター団長はすぐに視線を動かして、バッと体を起こすと、しゃがみながらこちらへ迫ってくる腕を受け止めた。
「動けるか!?」
「は、っ……」
アリスター団長は剣の腹で、あのゴーレムの腕を真正面から受け止めている。
私はすぐにでもこの場から逃げて、足手まといにならないようにしないといけないのに。
……地面についた手に、力が一切入らない。
「……すみませ、動けない……です……」
「そうか」
青ざめてアリスター団長を見上げると、団長どのは片手で直にゴーレムの腕を受け止めながら、剣を握ったもう片方の手を振り下ろした。
どれだけ力を込めているのか、盛り上がった腕の筋肉が制服をパンパンにしている。
ゴーレムの腕が切り落とされると、アリスター団長はちらりと私を見下ろして、左手で私を抱きかかえた。
ぐいっと体を起こされただけじゃなく、そのまま木々の中へと連れていかれて、どんな腕力をしてるのこの人は、と目を白黒させる。
「アリスター団長っ、ゴーレムが!」
「大丈夫だ」
団長どのの肩越しに、振り上げられた足にが見えて声をあげると、アリスター団長はささやくように答えて、優しく笑った。
大丈夫ってなにが、と焦りながらうしろのゴーレムを見つめると、不意にゴーレムの軸足が前に飛ぶ。
「――俺の
「ノア先輩がいるからな」
2人の言葉を聞いたとたん、体の力が抜けて……先ほど、一切動けなくなった理由が分かった。
私、アリスター団長が来てくれたことで、安心したんだ。
もう、大丈夫だって。
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