男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

13,その魔物と目が合ったら、

約2,000字(読了まで約6分)


 ゴーレムには刃が通らない。
 せめてノアかアリスター団長がいれば戦いようがあるけれど……私1人、落ちこぼれ騎士9人のこの現状。
 最善策は……私がゴーレムを引きつけて全員を逃がし、ノアとアリスター団長が応援に来るのを待つこと!


「トムとネイサンを連れて、全員退避してください!」

「……ショーン……!」


 腰に下げたサヤから剣を引き抜いて、前に出ながら、こちらに向かってくるゴーレムの腕を剣の腹で受け流す。
 ノアよりも、アリスター団長よりもずっと重い攻撃に押し負けて、流したかった場所よりも拳2つ分内側に入ってしまった。


「ノアかアリスター団長に至急応援を! 急いで!」

「わ、分かった!」


 他の騎士が答えて、トムとネイサンを回収に行きつつ、全員がばらばらに逃げていくのを見て、ほっと一息つく。


「……俺も、戦う」

「ニック先輩!?」


 ゴーレムに向き合うと、隣からニック先輩の声がした。
 騎士団支給の剣を構えたニック先輩を見ると、その奥からゴーレムが左腕を振り抜いてくるのが見える。
 私はつま先に力を入れてニック先輩の前に出ながら、剣の腹を押さえてゴーレムの腕を受け流した。


「……フンッ!」


 ゴーレムの力に押されていた左腕が、ふっと軽くなって、何事かと視線を向けると、ニック先輩がゴーレムの腕に剣の腹を押しつけていた。
 刃の部分を使っていないのは、岩に負けて、最悪刃が欠けてしまうからだろう。
 おかげで、流したかった場所に攻撃を流せたけれど……。


「ゴオオオオオ!」


 ビリビリと耳が痛くなる声をあげながら、ゴーレムは怒ったように腕と足を振り上げる。
 踏み潰し攻撃は回避!と、すぐにバックステップをした私の視界に、ゴーレムを見上げながらたじろぐニック先輩の姿が映った。


「早く下がって!」

「……っ!」


 声をかけると、ニック先輩は、ハッとしたように一歩二歩とうしろに下がる。
 しかし、攻撃範囲から出るよりも先に、ゴーレムの足が降ってきて、私は舌打ちをしながらニック先輩のうしろに走った。
 全体重をかけて攻撃を受け流せば、少しは時間を稼げるかもしれない。


「しゃがんで、横に逃げてください!」


 指示を出しながら、下りてくるゴーレムのつま先に剣の腹を添えた。
 体が前に倒れるほど、剣に体重をかけて、指一本分でもゴーレムの足をうしろにずらそうと(こころ)みる。
 その間、ニック先輩は私が言った通りにしゃがんで、横に抜け出た。
 ニック先輩が安全圏に出たのを横目に確認すると、私はうしろに飛ぶ。

 ズドォン!とすぐに地響きをともなった、ごう音がして、ほおが引きつった。
 馬鹿力の巨体め……!


「……助かった」


 ニック先輩はゴーレムに剣を向け直しているものの、その剣先がずっと揺れていることに気づく。
 まぁ、“目が合ったら死を覚悟しろ”と言われている魔物だし、ふるえてしまうのも無理はない……。

 ……6年騎士として働いてる人だし、プライドを傷つけることになるけど……命のほうが大事だから、しかたない、か。


「ニック先輩。自分には誰かを守りながら戦うだけの余力はありません。騎士なら自分の足で逃げてください」

「……しかし、ショーンが……」

「“1人なら”時間稼ぎくらいはできます。今、自分を手伝うよりも、ノアとアリスター団長をすぐに呼んでもらえたほうが助かるんです!」


 回転しながらブォンブォンと振り回されたゴーレムの腕を、下にもぐり込むようにして上へ受け流した。
 早く1人にして!と思いながら腕に力を込めていると、「……分かった」とふるえた声が聞こえる。
 ちらっとうしろを見ると、ニック先輩が木々の向こうへと走っていくのが見えて、今度こそほっとした。

 こうなれば、無理に攻撃を受け流す必要もない。
 私はバックステップで距離をとって、剣を構え直した。


「ゴオオオオオ!」

「魔物の声ってのは、なんでこんなにうるさいん、だっ!」


 ピタッと回るのをやめたゴーレムは、右腕を振りかぶってこちらに殴りかかってくる。
 横に飛んで、剣の腹を押し当てながら気持ち軌道をそらすと、ゴーレムの拳はうしろの木に当たって、メキメキッと幹を倒した。

 ゴーレムの拳が木に当たった瞬間を見計らって、岩と岩の間の継ぎ目に剣を振り下ろすと、サクッと刃が通る。
 それと同時に、ゴーレムの腕の先が地面に落ちたのを見て、うしろに下がった。

 継ぎ目には攻撃が通るっていう情報は本当だったみたい。
 ただ……。


「うわ、浮いてくっつくのか……体勢崩すのにも使えないな」


 落ちた腕の先が、ふわりと浮いて本来あるべき場所に戻ったのを見て、乾いた笑みを浮かべた。

 ゴーレムは魔石を壊さないかぎり、再生をやめない。
 ゴーレムを倒すには、腹部に当たる岩を砕いて、その奥にある魔石を壊す必要がある。
 でも、岩を砕くなんて並大抵の攻撃じゃ無理だから、“目が合ったら”……存在を認識されたら、死を覚悟する必要がある魔物なんだ。


「早く天才剣士の助けが来ますように……」


 どっちでもいいから早く来て、と念じながら、私はゴーレムと少しの間ダンスをすることにした。


第2章 2人の天才剣士

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