男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

12,キースの企みと、静かな森

約2,200字(読了まで約6分)


Side:キース・ヤーノルド


「や、ヤーノルド団長……マリーゴールド騎士団をナギービの森に行かせたというのは本当ですか?」


 本部の廊下を歩く私に、ビクビクしながら声をかけてきたのは、シクラメン騎士団の団長だ。


「そうですが、なにか問題でも?」

「問題って……今あの森は危険だとお伝えしたではありませんか……!」

「……ほう。それは初めて聞く話ですね。詳しくお話しください」

「は、初めて? ですが本部へ戻ってすぐ、お話ししたではありませんか……ナギービの森に、強大な魔物がいる恐れがあると……!」


 強く言えもしないくせに、うるさい人間だ。
 まぁ、これも予定通り……。


「なんですって? それならば、我々スイセン騎士団が応援に行かなければ。出立の準備があるので、失礼します」

「ヤーノルド団長……あなたは一体なにを……」


 シクラメンの団長を無視して、私はスイセン騎士団を動かしに向かった。

 たかが侯爵(こうしゃく)家の分際で、鬼才を発揮して、王国一の騎士とまで言われているアリスター・カルヴァート。
 若くして団長になった私よりも目立つ貴様がずっと気に入らなかったが……へらへらしていられるのも今日までだ。
 マリーゴールド騎士団が存続不可能なほどに“団員を失え”ば……貴様の名声は地に落ちる。

 そして、生き残ったノア・エクルストンと、ショーン・ローズは私の物に……。


「ククク……今に見ていろ」



****
Side:シャノン・ローズ

 森の中へ入ってから、もうどれくらいの時間が経っただろうか。
 シクラメン騎士団が来たあとと言うだけあって、巡回中、1体も魔物に会うことはなかった。


「本当に魔物、いるのか……?」

「ふっ……この僕に恐れをなして、逃げていったのかもしれないね」

「それはそれで問題だけど。まぁ、他の騎士団が遠征(えんせい)に来たあとという話もあるから、魔物に会わずに終わる可能性もあるだろうな」

「えーっ、本当かよ! 俺たち、なんのために来たんだ?」


 トムたちもしびれを切らしてきたし、そろそろ合流地点に戻ってもいいかな?
 さすがにまだ早い?

 もう少し森の中を散策するかどうか考えながら歩いていると、ざくざくと足音が聞こえてきた。
 これは、数的にも別班の騎士たちかな。


「……ショーン」

「ニック先輩。そちらはどうでした?」


 予想通り、木々の向こうから姿を現したのは、マリーゴールド騎士団の面々だった。
 先頭を歩くニック先輩が、向こうの班のリーダーなんだろう。


「……スライムが、1体」


 ふぅん、シクラメン騎士団が見落としたのかな。
 となると、私たちも魔物に遭遇(そうぐう)する可能性があるわけかぁ……めんどくさい。


「こちらは遭遇なしです。もう少し探索してみます」

「……こっちへ、来てくれないか」

「はい?」

「……木が、倒れているのを見つけた。なにかあるかもしれない」

「……分かりました」


 倒れた木、ね……。
 激しい戦闘の跡とか?
 でも、スライムやアルミラージ、ゴブリンくらいの魔物しか出ない森で、そんなに激しい戦闘が起こるわけもないし……。

 そんなことを考えながら、私たちはニック先輩の班と一緒に、その倒れた木を見にいった。
 たどり着いた場所には、確かに、葉を生やしたまま倒れた木がある。
 見たかぎりは青々としているし……弱っていて、風に倒された、とかではなさそう。


「……根元は、こっちだ」


 木の幹をたどるように、根元のほうへ歩いていくと、そこには地面に根を生やした切り株があった。
 いや、切り株というには、“へし折られました”感が満載(まんさい)の、ギザギザした断面をしているのだけど。
 うっかり触ろうものなら、あっという間に断面が刺さって血が出るだろう。


「うわー……すごいな」

「変だな……」


 戦闘の跡なら、倒れた幹に傷のひとつでもついているはずだし、木が折れた原因となるような切れ目も断面にない。
 ここに来るまで周りの様子も見ていたけれど、倒れた木に巻きこまれて、いくつか折れた枝が落ちていただけで、荒らされた様子もなかった。

 そしてここの周辺には……幹が倒れているほうとは反対側に、小山のようなどでかい岩があるだけ。
 継ぎ目があるから、ひとつの岩ではなく、複数の岩が積み上げられてできた岩山のようだ。


「あれはなんです?」

「……調べていない」

「ふっ、僕が見てこよう」

「あぁ、じゃあ頼んだ」


 近隣住民か、シクラメン騎士団が作ったものかな、と思いながら、他にも倒れた木がないか辺りを見回していると……。


「うわぁっ!」

「なっ!? ネイサン!」


 ネイサンとトムのさけび声が聞こえて、岩山のほうに視線を戻した。
 そこには、動いている岩山と、近くの木にたたきつけられて、ドサッと座り込むネイサンの姿があった。


「……!」

「は、ゴーレム……!? っ、トム、下がれ!」

「え、うわぁぁっ!」


 ネイサンを助けにいこうとしたんだろう、前に出ていたトムが、ブォンと振り回された岩に殴り飛ばされて、別の木に打ちつけられる。
 動き続けたどでかい岩山は、今や、周りの木々よりも頭が飛び出た、巨大な人型となった。

 岩の巨人、ゴーレム。
 それは、出会ったら“見つかる前に逃げろ”と言われるほど、ゴブリンやオークとは比べ物にならない危険な魔物だ。


「はは……」


 今この場にいるのは、私を抜いて9人。
 ゴーレムが私たちを認識している以上、全員を守り切る自信は……ない。

 私は冷や汗を流して、引きつった笑みを浮かべた。


第2章 2人の天才剣士

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