男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

11,マリーゴールド騎士団の初任務

約1,900字(読了まで約5分)


Side:シャノン・ローズ

 ノアがマリーゴールド騎士団に来てから、早くも7日が経った。
 おどろくことに、アリスター団長は手合わせのときのかすり傷で、3日も訓練を休ませてくれた。
 実のところ、4日目も休みを(すす)められたのだけれど……。
 さすがに怠惰(たいだ)がすぎるので、訓練には出ておいた。

 まぁ、その訓練というのも、アリスター団長の指示で、軽いメニューばかりだったのだけれど。
 かすり傷ひとつでここまで休めるなら、多少の痛みは我慢してこれからも怪我をしようかと、心が揺らいでしまう。


「ショーン、こういう攻撃ってどう対処したらいいんだ?」

「……ん、なんだって?」

「ニック先輩、お願いします」


 振り向くと、こくりとうなずいたニック先輩が、トムに向かって切り下ろし、切り上げ、水平切り、突き、と4回攻撃をした。
 トムはそれにガード、回避、ガードをして、4回目の攻撃をがら空きの状態で受ける。


「あぁ、1回目と2回目をガードして、3回目を回避にすれば動ける」

「2回目をガードか……」

「……もう一度、やろう」

「はい、お願いします!」


 トムが苦戦しながらニック先輩の攻撃を受けるのを、ぼーっとながめた。

 ノアが来てからあまり話しかけてこなかった3人だけど、私が連日訓練を休んでいたら、心配だと言って突撃してきた。
 以降、ノアが離れているときはふつうに話すようになったのだけれど……。
 なにを思ったのか、アリスター団長が不在のときは、こうやって私に対していろいろ聞いてくる。
 トムいわく、ノアより話しかけやすいから、だそうだ。

 まぁ、最近はそのノアも、アケビ騎士団とか、他の騎士団に連れていかれて、練習試合をさせられているみたいだけれど。


「みんな、いい話があるぞ!」


 訓練の合間の休み時間に、訓練場を訪ねてきたキース団長と、場所を移して話していたアリスター団長が笑顔で帰ってくる。
 ばらけて自主練習をしたり、休んでいた団員たちがアリスター団長の前に集まると、団長どのはみんなの顔を見回した。


「うん? ノアは……」

「アケビ騎士団に連れていかれました」

「そうか、今日は戻ってこないかもしれないな」


 苦笑いしたアリスター団長は、改めて口を開く。


「僕たち、マリーゴールド騎士団の初任務が決まった。ナギービの森へ、遠征(えんせい)だ!」

「「おぉーっ!」」



****


「で、ナギービの森ってどんな魔物が出るんですか?」


 バタバタとした準備期間を終えて、マリーゴールド騎士団一同で、王都より東にあるナギービの森に来たものの。
 あのキース団長が持ってきた話なのだから、ろくな仕事じゃないだろう、と私はこっそりノアに尋ねた。


「スライムとか、アルミラージだな。ボス級でゴブリンが出る程度だ」

「え……」


 弱い魔物、勢ぞろいじゃん。
 落ちこぼれ騎士団の初任務にはお似合いかもしれないけど……。

 “騎士団が森へ遠征”と言えば、森の中を手分けして巡回し、魔物を掃討(そうとう)する仕事が待っていることを意味する。
 オレンジ色の制服を着ているのはいつも通りだけれど、各々(おのおの)帯剣(たいけん)しているのが普段の訓練とは違うところだ。


「その上、ナギービの森には最近シクラメン騎士団が行ったらしい……無駄足を踏ませようという魂胆(こんたん)だろう」

「うわ……嫌がらせに全力ですね、キース団長って」

「引き抜きを断った腹いせかもしれない」


 あぁ、あのあとノアも勧誘されたんだ。
 私もキース団長が嫌がりそうな点を押し出して断ったからなぁ……。
 興味をなくされることを期待したけれど、もしかしたら恨まれているかもしれない。

 面倒な人に目をつけられてるものだ、マリーゴールド騎士団は。


「それでは、班分けをする! 6班に分けるが、緊急時は2班ずつ連携して動くこと!」

「「はい!」」

「1班、リーダー、ショーン!」

「え……はい……」


 まさかリーダーを押しつけられるとは……。
 ショックすぎてアリスター団長の声が右から左に流れていく。

 あれが悪かったの?
 遠征前、アリスター団長にちょっとしつこいくらい体の具合を聞かれたとき、もう大丈夫ですって言っちゃったのが……。
 多少怪しくても、実はまだ……って言っておけばよかった?

 思えばあのとき、なにか言いたげだったからなぁ……アリスター団長。
 あのときだけじゃなくて、最近ずっとなにか言いたげな様子だけど。


「――以上! 森へ入るぞ!」

「「はい!」」


 あぁ……始まってしまった……。
 ……まぁいいか、どうせ弱い魔物しかいないし、魔物自体出るか怪しいし……。


「ショーン、俺たちも行こうぜ」

「あぁ……」


 声をかけられて視線を向けたら、トムとネイサン、その他2人の騎士が私を見ていた。
 どうやら、彼らが同じ班のメンバーらしい。


「……行きましょう」


 私は観念して、1班の指揮(しき)をとることにした。


第2章 2人の天才剣士

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