男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

8,手合わせの結果と、本気の反動

約2,000字(読了まで約6分)


 手首を返して剣を振り下ろすと、アリスター団長の剣に真っ向からガードされる。
 一切押し負ける気配がない団長どのに、力で勝てるとは思えない。
 なら、やっぱりここは手数で勝負をしかけるしかないだろう。

 私は蹴りで時間稼ぎをしながら剣を引いて、突きをお見舞いした。


「足癖が悪いのは、ノア先輩ゆずりだなっ!」

「ノアに教わりましたから!」


 下から剣を弾かれて、上に投げ出された腕を胸元に引き寄せる。
 すきを見落とさず、切りかかってくるアリスター団長の剣を、逆手(さかて)に持ち直した剣で受け流した。
 勢いに負けるのを計算に入れて剣を押し出すと、予想通り“いい場所”に流すことができて、一歩踏み出す。

 一瞬のすきも(のが)すものか、と純手(じゅんて)に持ち直した剣を、団長どのの胴体めがけて振り下ろした。


「ハァッ!」


 アリスター団長は大きく開いた瞳をキラキラと輝かせて、一歩、私のほうに踏み込んでくる。

 正気!?


「僕はうれしいぞ」


 目を細め、にぃっと笑いながら、アリスター団長はタックルで私を突き飛ばした。


互角(ごかく)に戦える相手が増えて」

「ぐっ……!」


 こんなこともしてくるんだ、と、うしろによろめきながら、なんとか剣は前に構える。
 お互いに体勢を立て直す時間となったから、追撃はなかったけれど。
 私はアリスター団長が動き出す前に、重心を前に傾けて剣を振り下ろした。

 そして、真っ向からガードされたのを見るや否や、力を抜いて、とんっと地面を蹴る。
 体ごと回転しながらアリスター団長に切りかかると、視線が(まじ)わって、危険を察知した。

 まずい、読まれてる……!


「おや」


 少々無理をして、地面に足がついたとたん、バックステップをくり返して距離をとる。
 すると、アリスター団長がかがんだ姿勢で、私がいた場所に剣を振り抜くのが見えた。

 危なかった……!

 私は短く息を吐いて、すぅ、と空気を肺に入れてから、距離を詰めて、アリスター団長が動く前に切りかかる。
 ガードする剣に触れると、跳ね返るように剣を浮かせて別方向から攻撃し。


「っ」


 呼吸を止めたまま、とにかく素早さ勝負で連撃をくり出した。
 キンッキンッキンッと短い金属音が絶え間なく響き、アリスター団長にかすり傷をいくつか負わせることにも成功する。
 体が少し重くなったのを感じてすぐに退避すると、今度はアリスター団長が(せま)ってきた。


「ふっ!」


 振り下ろされた剣を受け流すと、例の、とちゅうで力を抜いて水平に切りかかってくるあの攻撃がきて、しゃがみながら剣を受け流した。
 はぁっ、と荒い呼吸が漏れる。

 少し疲れてきた、でもまだやれる!

 私はアリスター団長を見上げて、剣を振り上げた。


「ショーンは吸収が早いなっ」


 アリスター団長は笑って私の攻撃をガードすると、剣を振り下ろしてくる。
 私は立ち上がりながらうしろに下がって、剣を構え直した。
 アリスター団長が手首を返して切り上げてくるのを見て、受け流そうと剣を動かしたのに……。

 どっと体が重くなって、思わず前にふらつく。


「なっ!?」


 下から迫ってくる剣は見えても、腕がなまりのように重くて動かない。

 あぁ……まだ、大丈夫だと思ったのに……。

 こんなに急に疲れが襲ってくるのは久しぶりだな、なんて思いながら、私はお腹に痛みが走るのを感じた。
 それが表面をかする程度で済んだのは、私の異変に気付いたアリスター団長が、とっさに手を引いてくれたからだろう。

 やっぱり、あの連撃はスタミナ配分を間違えたかなぁ……。
 そんなことを思いながら、私は遠のく意識と共に、どさっと倒れた。


「ショーン!」



****

 気づいたときには、ベッドで寝ていた。
 だるい体を起こそうとすると、お腹に痛みが走って、「いてて……」と思わずお腹を押さえてしまう。


「あー……手当、してもらったんだ」


 手を離すと、破れた制服のすきまから白い包帯が見えて、肩の力が抜けた。
 辺りを見れば、ここは自室のようだと分かる。
 ついでに、タンスの上に置かれたメモに気づいて、傷に(さわ)らないよう、そっと手を伸ばした。


[怪我をさせてしまってすまない。手当はしておいたから、今日はゆっくり休んでくれ]


 隅に、“アリスター”と書いてあるのを見て、団長どのが手当してくれたんだ、と納得する。
 部屋まで運んでもらって、申し訳ないことをしちゃったなぁ……。

 ……手当って、どこまで見られたんだろう?
 制服をまくった、程度じゃなくて、脱がされた上で、だったら、胸を厳重(げんじゅう)に押し潰している包帯も見られたことになるのだけれど。


「……なにも書いてないし、見られてない、よね?」


 うん、きっと大丈夫だ。
 もし私が女だって気づかれたら、アリスター団長は帰らずに私の目覚めを待っていただろうし。
 騎士団に女性が混じっていることが判明したら、とんでもないさわぎになることは間違いない。

 変にビクビクしないことが、隠し事を守り抜くためのコツでもある。
 私は浮かんだ疑惑(ぎわく)をすぐに振り払って、湯浴(ゆあ)みをしに行くことにした。


第2章 2人の天才剣士

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