男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。

6,ショーンの評価

約2,000字(読了まで約6分)


Side:シャノン・ローズ


「はぁぁぁ……つっかれた……」


 両腕を広げた私2人分の広さを持つ部屋に戻ってそうそう、私は閉めた扉にもたれかかるように座り込んだ。
 訓練が、しんどすぎる。
 ノアが口出しするせいで下手なフリもできなくなったし、訓練をサボる計画も……。
 ううん、ノアを味方につければ逆にチャンスが増えるかも?

 そうだよ、実力を隠せなくなったとしても、天才と名高いノアがいれば、私はその影に隠れてこき使われることもないだろうし!
 私の事情をよく知る味方ができたと思えば、ノアがうちの騎士団に入ってきたこともそう悪くないかも……!


「……なんて、ポジティブすぎるか」


 実際には、めんどくさいことのほうが多いんだろうなぁ……。
 はぁ、と大きなため息をついて、私は目を閉じた。
 湯浴(ゆあ)みはみんなが済ませたあと、念を入れて深夜と決めているし、夕食はまだのどを通りそうにないし。
 このまま、少し休もう……。


****


 わざわざ部屋まで呼びにきたノアと夕食をとったあと、私は湯浴みまでの時間を持てあまして、夜風にあたりに行くことにした。
 最初は狭いし不便だと思っていたおんぼろ宿舎も、住み慣れてみれば、それほど悪くない。
 長らく放置されていました、という外観に反して、中がきれいだったのもあるし。


「ショーン? どうした、これから自主練習か?」

「アリスター団長……いえ、少々夜風にあたろうかなと」


 宿舎を出ると、向かいからアリスター団長が歩いてきた。
 湯浴みを済ませて楽な格好に着替えている人もいるのに、アリスター団長は私と同じく、制服を着たままだ。


「アリスター団長はどちらに?」


 上司と出会って、すぐに去るのも印象を悪くするかな、と思って無難(ぶなん)な話題を振ってみる。
 アリスター団長は夜空をバックにしてもキラキラしたまま、「あぁ」と笑った。


「本部で書類仕事を終えてきた。アケビ騎士団の団長と、キース団長と話していたら少し遅くなったな」

「お疲れさまです。ノア……さん、の話ですか?」

「ありがとう。僕に気を遣って呼び方を変えなくていい。トレードの話になったが、断ってきたよ」


 相手からして、ノアの話だろうとは思ったけれど……トレードか。
 ノアを引き抜く代わりに、どんな騎士を押しつけるつもりなのか……。
 アケビ騎士団の団長はともかく、キース団長はろくでもない騎士を押しつけてくるんだろうな。


「ノア先輩はともかく、ショーンの気持ちを聞いてないからな」

「自分、ですか?」


 どうしてそこで私の名前が出てくるわけ?

 ぽかんとすると、アリスター団長は面白がるように笑う。


「ショーンはノア先輩の弟子だろう? 昨日の打ち合いを見た者は、きみを欲しがって当然だ」

「え……防戦一方だったのに、ですか?」


 反撃は一切してないのに……あれくらいで引き抜きなんか考える?


「僕の目には、かなり余力があるように見えた。他の団長もそう思ったから、トレードの話を持ちかけてきたんだろう」


 うそでしょ。
 腕が立つ人の目をちょっとなめてたかも……。


「……自分はマリーゴールド騎士団の訓練についていくのもやっとなので、他の騎士団に行くつもりはありません」

「ははっ、確かに、ちょっと大変かもしれないな」


 吹き出すように笑ったアリスター団長を見て、納得していただけたようでなによりです、と心の中で返した。
 落ちこぼれ騎士団の訓練が一番楽に決まってる。
 アリスター団長は根性論のスパルタ訓練をしないし、私が限界を迎えたら休んでいいって言ってくれるし。
 ここよりいい環境なんてない、他の騎士団には絶対。


「そうだ、ショーン。今はどのくらい回復している?」

「……8割は回復したかと」


 本当は、ほぼ回復してるけど。
 一体なにを言われるのか、警戒しながらアリスター団長を見ると、にっこりと笑いかけられた。


「それなら、今から僕と手合わせしてもらえないか? ショーンの本気を見てみたいんだ」

「本気……ですか……」

「使うのはあの白い剣でいい。僕も自分の剣を使う。彼に新しい剣を作らせたその実力を、僕にも見せてくれ」


 真剣で試合?
 確かにあの剣が一番扱いやすいけれど……。


「あの、新しい剣を作らせた……って、鍛冶(かじ)職人なら当たり前のことなのでは?」

「ノア先輩から聞いていないのか? 彼は自分が認めた実力者にしか、武器を作らないんだ。“騎士の最後の夢”とも言われる難関なんだが」

「えっ……!」


 そんな大層な試験だったの、あれ!?
 本気で戦っている姿を見て、体に一番合う剣を作るってノアが言ってたから、確かに全力でノアと試合をしたけれど……!
 そんな意味を持つ剣なら持ってこなかったのに……!


「どうだろう、ショーン。団長としても、部下の実力を把握(はあく)しておきたい……と、言うには私欲が強すぎるんだが」


 苦笑いして、「手合わせしてもらえないか」と言うアリスター団長(直属の上司)に、断りの返事などできるはずもなく。
 私は不承不承(ふしょうぶしょう)にうなずいた。


第2章 2人の天才剣士

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