男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
3,天才、ノア・エクルストンの弟子
解放されたノアも、
涼し気な切れ長の瞳で私を見つめながら、離れていく私の手をつかむ。
「“初めまして”と言うのは許さない。久しぶりだな、俺の
このっ……!
ほおがピクピクして笑顔をキープできないじゃない……!
「名前だけじゃなくて、顔までそっくりなのですか。光栄なことです。それでは」
ノアの手から自分の手を引き抜いて、ガン見してくるアケビ騎士団の人たちと、ノアに背を向けた。
そのまま走り去ろうとすると、お腹に腕を回されて、うしろへ抱き寄せられる。
「俺が逃がすわけないだろう、“ショーン”。アケビ騎士団に入ると思っていたのに……どこに隠れていたんだ?」
「いい加減にしてください、人違いだと言ってるでしょう!」
「さては、いつものサボり癖だな。入団試験で手を抜いたか」
うっ、さすがに私の思考回路をよく読んでいる……!
というか、そこまで分かってるなら私に合わせてよ!
キッ、とノアをにらむために振り返ると、ノアはこの状況を楽しむように目を細めた。
「失礼ですが、エクルストンどの。本当に彼が“弟子のショーン”なのですか? 彼の所属はマリーゴールド騎士団ですが……」
ついに私を探しにきた騎士が口を挟む。
視線くらい向ければいいのに、ノアは私を見つめたまま。
「マリーゴールド騎士団か、聞き覚えがないな」
「今年から新設された騎士団です。アリスター・カルヴァートどのが団長を務めていて……」
ノアと練習試合をしていた騎士が補足して、口元に手を添えながらノアに耳打ちした。
「各騎士団が落ちこぼれを押しつけた結果、団員は落ちこぼればかりになったとか」
例によって、私の地獄耳は内緒話を聞き取るわけだけれど。
うちを
ノアは「ふっ」と笑うと、私のお腹から手を離して、耳打ちした騎士から刃を潰した練習用の剣を取り上げた。
「ショーンは俺の自慢の弟子だ。少々、サボり癖はあるがな」
訓練場全体に響かせるような大声でそんなことをのたまったノアに、ほおがひくつく。
「見せてやる、俺の可愛い愛弟子の実力を」
きれいに笑うノアを見て、
ノアが一瞬で眼前に
ブンッと風切り音をさせたあと、ノアが私を追って右下から切り上げてくる。
ちょっとっ、剣筋が本気なんだけど!
ノアは自前の剣だし、当たったら痛いどころじゃ済まない大怪我に……っ!
私は冷や汗を流しながら、受け取った練習用の剣でノアの攻撃を受け流した。
「いいぞ」
「よくないっ!」
笑いながら、ノアは手首を返して切り下ろしてくる。
それが右の二の腕を狙う、絶妙に避けづらい攻撃だったから、私もすぐに手首を返して、両腕を交差させるように剣の腹を押さえた。
シャァァッと金属が滑るいつもの音を聞きながら、ノアの剣を離して、バックステップで距離をとる。
「な……」
あぁもう、アケビ騎士団の2人がぽかんとしてるじゃん……っ!
これ、あとでどうやって言い訳すればいいの!?
「俺と打ち合っているのによそ見か?」
「っ、」
ななめ上から迫ってくる剣に気づいて、受け流しの構えをとると、ノアの剣が跳ねて、反対側からの切り下ろしに変わった。
私は奥歯をかんで、対左の構えのまま、右からの攻撃を受け流す。
しかし、このまま剣の上を滑らせると柄にぶつかってしまうから、ここだ、というタイミングで、くいっと柄を持ち上げて剣を弾いた。
甘い受け流しは、次の攻撃への移行を
ノアは弾かれた剣の勢いを殺さず、ひじをうしろに曲げて突きの構えをとった。
黒い剣先がまっすぐみぞおちを狙ってくるのを見て、ためらう時間はないと、思いっきり上体をそらせて、地面に手をつく。
そのまま足を振り上げてノアの剣を上に弾くと、地面についた手に体重をかけて、反対側に足を下ろした。
この回避方法を使うと、いつもノアは起こしたばかりの上体を狙ってくるから……。
上半身を起こしながら受け流しの構えをとって、予想通り眼前に迫っていた剣を左下に受け流す。
「上出来だ」
「うれしくないっ」
言葉を交わしている間にも、ノアはくるりと体を回転させて、前の試合でも使っていた反対方向からの攻撃をくり出してきた。
私は手首を返して、剣をぶつけるように押し出し、時間を稼いでから剣の腹に手を添える。
そのままノアの攻撃を受け流すと、追撃を受ける前に姿勢を低くして、ノアの背中側へと回った。
このまま一撃を入れてやりたいところだけど……“剣の天才”に反撃なんてしたらいよいよ言い訳できなくなる。
観覧者の反応は、と周りに視線を向けると、他の騎士団員もさることながら、アリスター団長やトムたちが驚いた顔をしていることに気づいた。
あぁ、やっぱり今の時点でもう、言い訳なんてできないかなぁ……。
私は
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