邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
11,邪教 への反撃
「あ……あげます! グレンさんが私を欲してくれるなら……っ。私の残りの人生、あげます! 私もグレンさんが好きです! だから、絶対に2人で――!」
バクバクと鳴る
「――生きて帰ろうな」
そう言って笑ったあと、グレンさんは馬をあやつって攻撃を
けれど、木の周りをグルッとまわってすぐにUターンし、あとを追ってきた
「くっ!」
馬に体当たりされることをおそれて後退した邪教徒もいれば、木の根を土の上に出現させて、馬を転ばせようとした邪教徒もいた。
グレンさんは
「ぐわぁっ!」
「ただの人間が
「それをあつかうのも けっきょくただの人間だろ!」
グレンさんの剣にたおれた人、馬の
私たちの横にふたたび転移してきた王妃殿下は、振り下ろしたナイフをグレンさんに はじき返され、無防備になった体を
木に
「くそっ、あの馬さえ うばえば!」
バシャッとうしろの湖から水が立ち
私たちに向けた攻撃ではない……? と
「はぁっ? 沼も作れんのかよ!」
「ぐ、グレンさんっ!」
「飛ぶぞ、シア!」
どうしたら、と思った次の瞬間、グレンさんは私を抱きしめて馬の背を蹴る。
部分的に沼へと変えられた場所に馬を残して、しっかりした地面の上に
「くっ、来るな!」
「はっ、弱腰だな!」
邪教徒は湖の水を持ち上げたけれど、それをあやつるよりも早く、グレンさんが剣を振り下ろす。
「ぐわぁぁっ!」という悲鳴のあと、バシャッと宙に浮いた水が
「すきを見せたな! 死ねぇっ、姫!」
「っ、シア!」
森のなかへ逃げて身を隠していたらしい邪教徒が声をあげて、木々のあいだから私に火の玉を飛ばしてくる。
一瞬体がすくんだけれど、迷っている時間はない! と、私は近くの湖へ飛びこんだ。
冷たい水が頭の先から足の先までをおおって、服をぬらしていく。
すぐに湖面へ顔を出したかったけれど、沈んでいく体をどう動かせば思いどおりにできるのかわからなくて、ただ手足をジタバタさせるだけになった。
早く湖面へ出ないと息が、とあせっていたら、ボチャンとなにかが飛びこんでくる音が聞こえて、体が上に引っぱられる。
「ぷはっ……!」
「大丈夫か、シアっ」
私を抱きしめる体、すぐそばから聞こえた声。だれに助けてもらったのかわかった私は、「はい」と体の力を抜いて、ほほえみながらグレンさんを見上げた。
水をしたたらせたグレンさんはホッとしたように笑い返して、湖の周りへ視線を向ける。
火をあやつるあの邪教徒は、と私も
「邪教徒め、止まれ!」
森のおくから声をひびかせて、邪教徒を追い立てるように出てきたのは、よろいを着て馬に乗った
どうして騎士団がここへ、と目を見開くと、「あぁ、やっと来たか」とグレンさんがこぼした。
「え……もしかして、グレンさんが呼んだのですか?」
「あぁ、シアの手紙を見てここに来るとちゅうにな。ったく、かけつけるのがおせーよ」
グレンさんが ぐちっているあいだも、騎士たちは邪教徒を包囲して、交戦しながら次々に彼らを取り押さえていく。
それを見て、ようやく助かったんだと実感が湧いてきて、思わず息を吐きながらグレンさんに身を寄せた。
「寒いだろ。上がるか」
「あ、はい……」
声をかけられてうなずき、グレンさんに支えてもらいながら湖のはしへ泳いでいく。
いざ地面に上がろうと顔を上げると、とつぜん王妃殿下が目の前に現れて、鬼のような形相をしながら私に手を伸ばしてきた。
「っ……!」
目を見張ることしかできなかった私とはちがい、グレンさんは王妃殿下の腕をつかんで、逆に湖のなかへ引きこむ。
バシャンッと大きな音を立てて水の中に消えた王妃殿下の姿を見ると、ドレスが重いのか、深くその体が沈んでいった。
「今のうちに!」
「は、はい……!」
私はグレンさんに支えてもらいながら地面に上がり、グレンさんもそれを見届けて自力で陸へ上がってくる。
ジャボジャボと服から水がしたたり落ちる音を聞いていれば、「姫さま!?」と声がした。
邪教徒を一通り捕らえた騎士団が私に気づいたらしい。
「あ……このなかに、王妃殿下が!
「お、王妃殿下が、邪教徒?」
騎士たちは
そのとき、バシャッと湖から音がして、王妃殿下が顔を出した。
「シンシア……おまえを邪神さまにささげるために、16歳になる日を待っていたのにぃぃぃ! おろかな娘が! 我々邪教の
「「なっ……!」」
身をすくめた私を、グレンさんが守るように抱きしめる。
王妃殿下自身の口から決定的な言葉が出てきたからか、騎士たちはおどろきながらも、警戒してこちらに近づいてきた。
「王妃殿下は、どこにでも一瞬で移動できる転移の力を持っています。ですが、人がふれていればその力は使えません」
「わ、わかりました!」
大事な情報を伝えると、騎士たちはうなずいて王妃殿下を引き上げる作業に入る。
これで王妃殿下が陰でわるさをすることはできなくなる……。
ホッとして肩の力を抜けば、グレンさんがボソッとつぶやいた。
「このまま城にもどったら、手が届かなくなるよな」
「え……?」
目を丸くしてグレンさんを見ると、彼はぬれた髪をかきあげる。
そして、私に視線を向け、わるだくみをするような笑みを浮かべた。
「またさらっていいか?」
「さら……!?」
思いっきり目を見開いた私のあごにふれて、グレンさんは流れるように口づけを落とす。
じわっと顔が熱くなったのを感じていると、グレンさんは私を抱き上げて、騎士団が乗ってきた馬へかけ寄った。
「はっ、ぐ、グレンさんっ、待ってください……! まだやることが――」
「――残りの人生、俺にくれるって言っただろ? あの手紙はあとで城に届けてやるからさ」
グレンさんは笑ってそう言うと、私を馬の背に乗せて、自身もすぐに飛び乗ってくる。
たしかに“あげます”って言ったけれど……!
チラリと騎士団を見て、まだ話さなければいけないことがあるのに、と思いつつも、高鳴る胸がグレンさんの提案に
全てを
ゆらいだ心は、すぐに
「……私を、さらってくださいっ」
「あぁ。――永遠に」
グレンさんは顔をまっかにした私に不敵な笑みを返し、馬の腹を蹴った。
「ヒヒーン!」
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