1,イケメン総長さまの本性は。―前―

約2,300字(読了まで約6分)


 進級にともなう浮足立った空気が落ちついてきた今日このごろ。
 広い体育館に数百人の生徒を呼び出し、朝から全校集会をおこなっているのは、うちの高校に長く巣食っているとうわさの不良集団・遊魁(ゆうかい)
 暴走族とも呼ばれる彼らは、まぁ力を持ちすぎた生徒会みたいな存在で、ガラがわるそうな見た目に反して、さほどぶっそうな事件は起こさない。


「ふわ~ぁ……」


 春の陽気にさそわれ、私があくびをもらしたとて、遊魁(ゆうかい)に目をつけられるかも、なんてビクビクする必要はないのだ。
 たとえそれが、百数十人といる遊魁(ゆうかい)の面々をまとめあげるリーダー、“総長”の演説中だったとしても。


「というわけで、例年どおりくじ引きをします」


 壇上(だんじょう)で、演説台を前にして立つ遊魁(ゆうかい)の総長・天草(あまくさ)爽太郎(そうたろう)がやわらかい声で言うと、「きゃーっ!」と体育館内のあちこちから黄色い悲鳴が上がった。
 学年問わず、女子は今日この日を楽しみにしていたようだからしかたない。それにしたって耳が痛くなる高音だけど。
 私が思わず片手で耳をふさいだのとは対照的に、天草はサラサラの黒髪をゆらして、シュッとしたきれいな顔になだめるようなほほえみを浮かべた。

 モデルかアイドルでもやっていそうな、さわやかなイケメンっぷりに加えて、“性格120点の極上男子”とうわさ される天草。
 そんな彼が暴走族の総長なんて、ギャップどころではない役職をしているのは、彼の身内に由来する。
 というのも、今年3月に卒業していった遊魁(ゆうかい)の先代総長は、天草の実兄(じっけい)らしく。

 血のつながりをうたがうほど、見た目から性格まで真反対の兄に後継者として指名されて、天草は周りにたいそうおどろかれながら、遊魁(ゆうかい)の総長になった。
 遊魁(ゆうかい)主催の全校集会と言えば、立ちっぱなしが基本だったけど、今は天草が「座っていてください」と始めに言うから、楽できるところには好感が持てる。


「この箱のなかには、うちの高校に通う全女子生徒の学年とクラス、名前が書かれたくじが入っています」


 演説台の上に置かれた大きめの箱にふれながら、天草は愛想(あいそ)よく説明する。
 これは何代か前に刺激(しげき)を求めて作られたルールらしいけど、去年ここに入学して初めて聞いたときは、とんでもない伝統だとため息が出たものだ。


「これから俺が1枚くじを引いて、今年度の1学期中、遊魁(ゆうかい)の姫になる女の子を決めます。とは言え、姫になった人に義務などはないので安心してください」

「お願いお願いお願い……! 私がえらばれますように……!」

「天草くんの彼女になりた~いっ……!」


 スピーカーを通した天草の声とは別に、女子のささやき声が四方八方(しほうはっぽう)から聞こえてくる。
 遊魁(ゆうかい)の“姫”。それは、男子ばかりの遊魁(ゆうかい)に唯一混ざれる特別な女子のことであり、たいていの場合、総長の彼女を()す。
 天草はモテすぎて、抜けがけ――つまり告白――禁止!と女子がおたがいに目を光らせているから、くじ引きじゃないと決着がつかないのかもしれないけど。

 私は遊魁(ゆうかい)の姫~とか、イケメンと付き合う~とか興味ないし、勝手に候補に入れるのはやめてほしい。
 まぁ女子だって百何人もいるから、今までどおり私がえらばれることなんてないだろうけど。
 のどかな陽気と相まって眠くなるし、さっさとこの全校集会が終わってほしいものだ。

 ――なんて思いながら、天草の声を聞き流して、二度目のあくびを手のなかで したせいだろうか。


「2年2組、氷室(ひむろ)冷那(れな)


 スピーカーを通してひびいた声に耳をうたがい、私は目を見開きながら壇上を見た。
 天草が、箱のなか から引いた紙切れを手に持って、体育館を見回している。


「1学期の姫は、2年2組の氷室冷那さんです。氷室さん、手を挙げてくれるかな?」

「うそでしょ……」


 同学年だから、顔見知りでも見つけて2組が ならんでいる場所がわかったのか。
 こっちのほうを見ながら紙切れをかるく持ち上げる天草を視界に収めて、私は思わず心からの声をもらした。
 氷室冷那。この学校に通う女子のなかで、一番姫に興味がなかった自信のあるこの私が、よりによって姫にえらばれてしまったらしい。


「氷室さん? ……あー、みなさん、ちょっと待っててくださいね」


 こまったように笑って、天草は壇上から降りてくる。
 まさか、こっちに来る気……?
 近くにならぶおなじクラスの女子や男子にチラチラと視線を向けられ、私は顔をそらした。


「氷室さんって今日、休み?」

「えっと……」


 2組の前に来たらしい天草の声が聞こえる。
 答える女子が言いよどんでいるのは、姫にえらばれなかったことがショックだからだろうか。
 私としては、べつのだれかが氷室だと名乗り出てくれてもいいのだけど、そんなことをしてもすぐにバレるだろうし。


「あそこにいるウルフカットの女子が氷室冷那っす」


 けっきょく、遊魁(ゆうかい)に所属するおなじクラスの男子に告げ口されて、私はため息をついた。


「氷室さん?」


 天草に呼ばれてチラリと視線を向けると、やっぱり目が合ってしまう。
 名乗り出ずに無視することはできなさそうだと観念して、私はゆっくり立ち上がった。


「私、姫なんて興味ないから、べつの子えらんで」

「え」


 無視ができないなら逃げてしまおう。
 そう決めて、私は二重(ふたえ)の瞳をポカンと丸くする天草に背を向け、体育館の出入り口に向かう。


「あ、ちょっと待って!」


 引き止める声を無視して、ざわつく体育館を早足で出た私は、そのまま昇降口(しょうこうぐち)に入った。
 今のところ、だれもついて来ては いないようだけど、もし教室まで追ってこられたらめんどうだ。


仮病(けびょう)でも使って保健室にいようかな」


 うしろを見て人がいないのを確認した私は、1人つぶやいて、1階の保健室に向かった。


ありがとうございます💕

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