1,イケメン総長さまの本性は。―前―
進級にともなう浮足立った空気が落ちついてきた今日このごろ。
広い体育館に数百人の生徒を呼び出し、朝から全校集会をおこなっているのは、うちの高校に長く巣食っているとうわさの不良集団・
暴走族とも呼ばれる彼らは、まぁ力を持ちすぎた生徒会みたいな存在で、ガラがわるそうな見た目に反して、さほどぶっそうな事件は起こさない。
「ふわ~ぁ……」
春の陽気にさそわれ、私があくびをもらしたとて、
たとえそれが、百数十人といる
「というわけで、例年どおりくじ引きをします」
学年問わず、女子は今日この日を楽しみにしていたようだからしかたない。それにしたって耳が痛くなる高音だけど。
私が思わず片手で耳をふさいだのとは対照的に、天草はサラサラの黒髪をゆらして、シュッとしたきれいな顔になだめるようなほほえみを浮かべた。
モデルかアイドルでもやっていそうな、さわやかなイケメンっぷりに加えて、“性格120点の極上男子”とうわさ される天草。
そんな彼が暴走族の総長なんて、ギャップどころではない役職をしているのは、彼の身内に由来する。
というのも、今年3月に卒業していった
血のつながりをうたがうほど、見た目から性格まで真反対の兄に後継者として指名されて、天草は周りにたいそうおどろかれながら、
「この箱のなかには、うちの高校に通う全女子生徒の学年とクラス、名前が書かれたくじが入っています」
演説台の上に置かれた大きめの箱にふれながら、天草は
これは何代か前に
「これから俺が1枚くじを引いて、今年度の1学期中、
「お願いお願いお願い……! 私がえらばれますように……!」
「天草くんの彼女になりた~いっ……!」
スピーカーを通した天草の声とは別に、女子のささやき声が
天草はモテすぎて、抜けがけ――つまり告白――禁止!と女子がおたがいに目を光らせているから、くじ引きじゃないと決着がつかないのかもしれないけど。
私は
まぁ女子だって百何人もいるから、今までどおり私がえらばれることなんてないだろうけど。
のどかな陽気と相まって眠くなるし、さっさとこの全校集会が終わってほしいものだ。
――なんて思いながら、天草の声を聞き流して、二度目のあくびを手のなかで したせいだろうか。
「2年2組、
スピーカーを通してひびいた声に耳をうたがい、私は目を見開きながら壇上を見た。
天草が、箱のなか から引いた紙切れを手に持って、体育館を見回している。
「1学期の姫は、2年2組の氷室冷那さんです。氷室さん、手を挙げてくれるかな?」
「うそでしょ……」
同学年だから、顔見知りでも見つけて2組が ならんでいる場所がわかったのか。
こっちのほうを見ながら紙切れをかるく持ち上げる天草を視界に収めて、私は思わず心からの声をもらした。
氷室冷那。この学校に通う女子のなかで、一番姫に興味がなかった自信のあるこの私が、よりによって姫にえらばれてしまったらしい。
「氷室さん? ……あー、みなさん、ちょっと待っててくださいね」
こまったように笑って、天草は壇上から降りてくる。
まさか、こっちに来る気……?
近くにならぶおなじクラスの女子や男子にチラチラと視線を向けられ、私は顔をそらした。
「氷室さんって今日、休み?」
「えっと……」
2組の前に来たらしい天草の声が聞こえる。
答える女子が言いよどんでいるのは、姫にえらばれなかったことがショックだからだろうか。
私としては、べつのだれかが氷室だと名乗り出てくれてもいいのだけど、そんなことをしてもすぐにバレるだろうし。
「あそこにいるウルフカットの女子が氷室冷那っす」
けっきょく、
「氷室さん?」
天草に呼ばれてチラリと視線を向けると、やっぱり目が合ってしまう。
名乗り出ずに無視することはできなさそうだと観念して、私はゆっくり立ち上がった。
「私、姫なんて興味ないから、べつの子えらんで」
「え」
無視ができないなら逃げてしまおう。
そう決めて、私は
「あ、ちょっと待って!」
引き止める声を無視して、ざわつく体育館を早足で出た私は、そのまま
今のところ、だれもついて来ては いないようだけど、もし教室まで追ってこられたらめんどうだ。
「
うしろを見て人がいないのを確認した私は、1人つぶやいて、1階の保健室に向かった。
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