男装して騎士団に入ったら、2人の天才に愛されて困ってるんですが。
1,男爵令嬢、お家存続の危機に遭遇 する
さて、どうやってこの試練を回避しようか。
ヘタレ兄、最大のやらかしを前に、私は楽をするための
「シャノン、まさか賢いあなたまで逃げようなんて、考えてはいないでしょうね?」
にこりと
今までもお母さまとは頭脳戦をくり広げてきたのだから、これくらいなんともない。
そう言い聞かせる自分とは反対に、平民ながらも男爵家に
「でもお母さま、いくらなんでも女の身である私が、
「お黙りなさい。あなたなら上手くやれるわ、シャノン。いいえ、必ず上手くやるでしょう、ねぇ?」
その圧をかけるような笑い方、やめてもらえませんかね。
私はお母さまに気づかれないよう、小さく口を開けて、ゆっくり息を吐き出した。
お母さまのうしろで
「お父さまだって、そんなことよくないとお思いでしょう? 元騎士として、実の娘の不正に目をつぶるわけには……」
「う、うむむ……」
「よいこと、シャノン。うそは明らかになるまで、真実なのです。あなたは16歳になる私の息子、ショーンなのよ」
「この上なく不名誉です」
思わず毒づいてから、目をつぶった。
私が先ほどお母さまに宣告されたのは、1つ上のヘタレ兄、ショーンになりすまして騎士団に入れ、という命令。
この国で最低位の貴族階級、“男爵”は出世した騎士、あるいは名をあげた商人がたまわる栄光だ。
しかし、男爵位を
騎士として男爵位を授かった家は、騎士を輩出し続けなければいけない、など。
「あの、お兄さまを探すというのは?」
「もちろん
お母さまは
まぁ、その意見には同意しますとも。
今は、目立った功績をあげなくても、5年間騎士として勤めれば男爵位を保てる。
圧力に負けて5年ぽっちじゃ退団できないことは、20年経ってようやく退団できたお父さまが物語っているけど。
お父さまに似て気弱な上にヘタレなお兄さまは、成人を迎えて、強制参加が確定している入団試験を3日後に控えた今、
試験が行われる王都までは、馬車で3日。
今日中に出発しないと、今年の入団試験には間に合わない。
「私だってこらえ
「シャノンは上手く手を抜くでしょう。それに、楽をするためならどんなことでもする
「お
口を動かしながら頭を働かせる。
受け入れたフリをして、私も今日はどこかに身を隠す?
ううん、それじゃあ家に帰れなくなる……貴族の身分に甘んじて、
「分かっているわね、シャノン。我がローズ家から騎士を出さなければ、男爵位は遠くない未来にはく
「う……」
「そうなれば、あなたが
それはそれは輝いた笑顔で、お母さまが閉じた扇の先を左手に当ててみせる。
男爵位のはく奪、それだけは避けたい。
平民になったら、朝から夜まで汗水たらして働かなければいけないから。
どうする、私……?
騎士団に入って規則と訓練に縛られた生活をするのはイヤ。
でも、騎士団に入らないと私は貴族のままでいられない……。
どうせ剣を扱う仕事だし、5年だけ上手くサボれば……。
「……分かりました。入団試験、受けてきます」
「よく言ったわ、ショーン。すぐに出かける準備をしなさい」
「シャノン、しかし……」
「アナタもお黙りなさい。心配いらないわ、あの子には剣の才能があるのだもの」
説き伏せられるお父さまを尻目に、私は自室へと戻って旅支度を始めた。
まずはこの長い赤髪を切って、胸もなにかで潰さないと。
荷物はお兄さまがまとめたものを持っていくとして……そうだ、一応私の剣も持って行こうかな。
騎士団から支給される剣があるというし、自前の剣を持っていく新人は少ないと思うけど……命の危険がある仕事だし。
ノア……師匠からもらった剣は、私に合わせて作られたものだから、なによりも手になじんで扱いやすい。
いざというときの奥の手があってこそ、存分にだらけられるというものだ。
「ねぇ、髪を切ってくれる? それから、長い包帯も持ってきて。予備の分と一緒に」
「かしこまりました」
節約のために少人数しか雇っていない使用人に用事を伝えて、私は窓の外を見た。
貴族で在り続けるために……。
「恨みますよ、お兄さま」
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